夢屋

深海いさな

第1話

 一通りの少ない路地。ひっそりと経営する木造の店舗。『夢屋ゆめや』の看板。

──そう、ここは夢屋。夢を売る場所。人生に彩りを提供する素敵なお店。


「やってるかい」


 還暦も間近だろう中年男性がやってきた。お客さんだ。

 どうやらくたびれた様子で。目の下にはクマがある。


「ええ。いらっしゃい」


 奥から店主が顔を出す。


「夢、売ってるかい?」

「やってますよ」


「いくらですか」

「時価」

「時価?」


 店主は怪しげな笑みを浮かべる。


「ざっと、六百万といったところです」

「ろ、六百万!?」


 法外な額に男性は動揺している。


「まぁ、時価ですので……夢を諦めますか?」

「ぐぬぬぬ……買おう」


 男性は下唇を噛み締めながら熟考するも、購入を決意した。


「お買い上げありがとうございます。またのお越しをお待ちしております!」


⭐︎


「ごめんください!」


 今度はキャップをかぶり、ランドセルを背負った少年が駆け込んでくる。


「夢ください! 時価って何?」

「六百円ね!」

「お小遣いより高えじゃん! 要らね!」


少年は去っていった。


「……またのおこしをお待ちしております」


〜夢屋さん 完〜

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