【ネタバレ有り】劇場版『機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning』の感想です。

杉林重工

Beginning


 ※ただの架空のお話です。架空の登場人物が、 『機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning』 の感想を喋るだけです。


【以降、ネタバレ有】『機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning』鑑賞後をお勧めします。


 ――わたしは、『水星の魔女』が好きだった。


 現代、どんな荒波があっても、オタク達の情報収集元の九割は旧Twitter[現X](情報源:わたし)である。


 そんな超大型ソーシャルネットワークサービス旧Twitter[現X]にて、西暦2022年当時、その『トレンド』を独占し続けたキラーコンテンツがあった。それも、日曜日の夕方というホットタイムで。それが、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』である。


 わたし=ホンナ・アイコはオタクだ。いつから、とか、どうして、とかはわからない。ただ、年齢が一桁のころからずっと見ていた『プリキュアシリーズ』に始まり、それらをずっと、今も見続けているだけだ。周りが『卒業』していった後も。


 ただ、小学校、中学校、そして今、高校三年生になり、わたしの観るアニメの『種類』だけが増えた。『夏目友人帳』や『ギヴン』『Free』あるいは『進撃の巨人』なども追いかけるようになった。


 そんなわたしが、『がんだむ』に興味を持ったのは、旧Twitter[現X]に投稿された一枚のイラストだった。フォローもしていなかったアカウントが投稿したもの。そのイラストから染み出るどことない儚さや線の薄さが、なぜかわたしの目を引いた。


『へえ、氷の君、エランっていうんだ』


 イラストをブックマークした後、そのアカウントの旧ツイート[現ポスト]を追いかけると、イラストのキャラクターの名前や、登場作品が分かった。


『――ガンダム。それが名前か』


 ガンダムのことは、全然知らなかった。ただ、ゲームセンターへ推しのグッズを探しに行ったとき、なんだか音も画面も人もうるさいコーナーに迷い込んでしまったことがある。その時、ガンダムという名前を見たことがある気がした。


 正直、食指は動かなかった。だが、そんな時、ネット上で見かけた誰かの旧ツイート[現ポスト]を思い出す。多分、そのアカウントは女性が運用していた。


『わたしは、我慢して■■■■■■(特に名を伏す)全部観たよ!』


 調べてみると、それは所謂ロボットアニメ。複雑な曲線と色分けに包まれたぞっとする密度の塊。アニメーターさんが死んでしまうのではないかと心配になって(該当アニメのロボット部分はCGらしいが)しまう。


 ところで、彼女の発言、これが驚愕であった。なぜ、我慢を? だが、彼女の言葉が、自然とわたしの背中を押したのは確かだった。それに、当時毎週、水星の魔女、という言葉が先述の旧Twitter[現X]のトレンドを独占していることぐらいは知っていたし。


 親が契約しているNetflixで『機動戦士ガンダム 水星の魔女』は観ることができた。恐る恐る、そしてなぜか親の目を気にしながら、わたしは『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の一話を再生する。


 ――わたしは、息を飲んだ。


 壮大かつ、広く大きく動く背景の『宇宙』

 清潔感あふれる、シンプルなデザインながらに、表情豊かな登場人物たち。

 たった一話で、彼らに一本筋が通っていると分かる力強いシナリオ。

 あまりにも先が気になる終わり方。

 主題歌:yoasobi


 気付けば、わたしは配信されている最新話、つまり六話まで観ていた。


『ん、エラン君、今、■■■の?』


 その日からわたしは家族に心配されるぐらい顔がやつれていたそうな。それでも、なぜかわたしは『機動戦士ガンダム 水星の魔女』を追うことをやめられなかった。


 だって、そんなことある? ねえ? そんな気持ちが続いた。確かに『進撃の巨人』でもたくさん人は■■■けど。まだ六話だよ?


 困惑と心配を抱えたまま、旧Twitter[現X]のタイムラインを追うこと、それは高校の教室でも同じだった。まるで――自分で自分のことをこういうのはイタくて恥ずかしいが――独りで氷の君を探すわたしは、スレッタみたいだと思った。だけど、わたしとスレッタには決定的な違いがあった。


『ん、ホンナちゃんガンダム好きなん?』


 それが、学校の中でも明るく目立ち、いつも大声で笑って、誰とでも距離の近い、わたしときっと正反対の女子生徒、ゼンマイ・ツクシとの出会いだった。根暗でいつも静かにして、そして独りでいるわたしと対照的に、先生達ですら諦めきった明るい茶髪を弾ませて、冬は制服の上にMA-1を着こなすそのギャップ。わたしの知らない、きっとおしゃれなシャンプーの香りが、わたしの喉を焼いたのだ。


「シン・『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』じゃんね!」


「それは言いすぎだろ」


「ジオン公国は負けていない! 宇宙世紀0080年(ダブルオーエイティ)、地球連邦政府はわれらジオン公国の正統性の前に屈し、宇宙から撤退した! ジークジオン! ジークジオン!」


「いや、全然違うだろ。まず『機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning』にアムロ出てないんだから。歴史を修正するな。それに『シン』をつけるにしたって、今回庵野監督はそこまで噛んでないって話だろ?」


「……否定できる?」


「……無理だ、ごめん」


「あと原画の最後にクレジットされてたのは笑ったよね」


「馬鹿野郎、庵野監督はある意味原画とか絵コンテで一番輝くだろ」


「ねえねえ、やっぱりド頭のガンダムが立ち上がるシーンまでは庵野さんの指示なのかな、『ふしぎの海のナディア』の時の『宇宙戦艦ヤマト』のパロディとか思い出すんだよね! あのねっとりした感じ」


「っていうか庵野さんは大体全部ねっとりとパロディというか、構図を持ってくる作風だろ。それにあんな脚本持ってこられたら誰だってパロディというか、ほとんどトレースみたいな進行にするにきまってるだろ」


「確かに! にしても曲もSEも構図も大体全部ファーストのまんまってのがほんと笑った! 最初のナレーションとか映像はほかの作品でもパロられてるし、ザクの顔アップも覚えてたけどそれ以外はあいまいだからさー。最近観てなかったし、もう一回ファースト最初っから観直したいなー」


「そうだな。ジーンすら正直忘れてたから帰りの電車で調べちまったしな。多分公開まで時間あるし、観直してもいいかもな」


 あと、シャリア・ブルもすっかり忘れてたし。ブラウ・ブロがでるまで分からなかったな、と付け足す。(著者注:正式名称はブラウ・ブロではなく別名)


「だよねー! わかってんじゃん先生! そしたらもっと味わい深くなると思うんだよねー」


「アムロのセリフ大体全部シャアが言ってたもんな」


「そうそう、シャアがガンダムに乗るって衝撃、わたし、ずっとぞくぞくしちゃって」


「なぜかすごい居心地悪いんだよなああのシーン。なんかおれのガンダムがめちゃくちゃにされている感覚というか。ガンダム対ガンダムなんて、ずっと前からやっているのに宇宙世紀の、デザインがいくら変わっているとしてもやっぱり、宇宙世紀の0079にRX-78-01と02が戦うっていうのは意味合いが違う。あのシーンの緊迫感とか、特に相手がバズーカを印象的に使っていたのが意味深ですごかったな」


「え、先生連邦派なの?」


「そういうつもりはないが、やっぱり宇宙世紀は不可侵な領域だとは思ってた。だけど、だからこそ時代が変わるのを見ている気がして目が離せなくなる。それが『機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning』の魅力になっている」


 おれはこの先を知っているはずなのに、どんどん知らない展開が生まれていくからな、と先生は頷いた。


「声優さんも結構変わってたしね。でもキシリア様もかっこよかったしわたしはよかったって思う」


「ハサウェイのこともあったし気にするなよ」


「……ねえ、あの!」


 トウキョウ都マチダ市、日高屋。時刻は夜八時を回って賑やかな店内の隅の席を陣取り、唾を飛ばして語らう男女、否、職業、教師のクチナシ・サンジとゼンマイ・ツクシ。二人は四人席の向かいに座っていた。そして、ゼンマイ・ツクシの隣に座るもう一人、それが……


「どったの、アイコ」


 日高屋の四人席を陣取る三人のうち最後の一人、わたし=ホンナ・アイコ。わたしはなんとなく目を擦った。手首に薄く涙の感触が走る。


 ゼンマイさんに、何か返事をしなくてはいけない。ついつい叫んでしまったが、それが間違いだったと遅れて気付く。後悔する。だけど、放っておいたら、言葉だけは勝手に口を突いて出た。


「二人が、何を言っているか全然わからない」


「え? どこが? アイコ声優も詳しかったよね?」ゼンマイさんは怪訝そうに眉間にしわを寄せた。


「名塚佳織さんは知ってるけど、その前の人とか、ハサウェイって、何? キシリアって誰だっけ?」


「どういうこと? だって、アイコってガンダム好きでしょ?」


「好きだけど、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』以外知らないよ!」


 思わず大声で返す。すると、ゼンマイさんは目を丸くした。


「……そんな、嘘じゃん? だって、あんなにガンダム楽しんでたから、他のも観てるに決まってるって……普通、そうじゃん」


「あと、なんでゼンマイさん、先生がここでテストの採点してるって知ってたの? 二人って何?」


 わたしの視線は自然と、ゼンマイさんの前に座る先生に向く。先生は唇を歪め、視線を逸らした。


「ああ、それはhttps://kakuyomu.jp/works/16818023212609472052/episodes/16818023212609486224を読めばわかるから」


「急にエイチティーティーピーってURL読み上げるやつ初めて見たぞ。っていうかそのURL読み込むとどうなるんだ。どういうつもりだ」先生がぼそりという。


 だが、そんなことをわたしは気にしてはいられなかった。ただ、もう感情の洪水が止まらない。


「わたしでも、『機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning』が、シャア? の出てくる、宇宙世紀? の続きなんだ、っていうのはわかったけど、だからって……」


「違う! 続きじゃない! 宇宙世紀では本当はガンダムに乗るのはアムロだし、シャアはああいう風には消えないし、ビグザムが量産化されたり、それからシャアとセイラさんの再会もあんなぶっとんでないし、そもそもジオンが戦争に勝利して一年戦争が終結するわけじゃないし。あ、でもガンダムなしでもソロモンまでは押し込まれてるのがオタクの宇宙世紀考察みたいできもいけど面白かった! 後、ガンダムはトリコロールカラーで赤じゃない。ガンダムハンマーは出たけど、本当はガンタンクもちゃんと出てくる」(著者注:でもガンタンク自体は壊され役ででてましたね)


 ハンマーなんて『機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning』には出てこなかったと思うけど。


「じゃああの映画は何だったの!」わたしは声を荒げた。


 その言葉に虚を突かれたのか、ゼンマイ・ツクシはしばし硬直した。


「あ……」


 言ってはいけないことを口にしてしまったのではないか。普段は見ない彼女の表情に、わたしの背中が冷える。


「うーん……庵野さんの、思想? シャア原理主義者みたいな、シャア信奉者ジオニズム過激派のプロパガンダ映像?」


 そして彼女から出てきた言葉は、やっぱりよくわからなかった。


「知らないよ、そんなの……」


「じゃあ、なんでアイコは一緒に『機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning』観に行こう、って言ったらついてきたの?」


「それは……」


 今度はわたしが考え込む番だった。否、答えはわかりきっている。


『大丈夫! エラン君はなんかそのうちまた出てくるよ! ガンダムってそういうものだから』

『六話の間でも、あの無口な感じからスレッタに惹かれていく感じがほんとよかったよね』

『それと、ガンダムに乗っているときの苦しそうなギャップも』

『他は? ねえねえ、ホンナさんの好きなガンダム、もっと教えてよ!』


「落ち着け、ゼンマイ」


 嫌な沈黙を、先生が潰した。


「『機動戦士ガンダム 水星の魔女』は徹底してガンダムに興味のない層にアピールをした貴重な作品だった。だが、そこから先、ほかのガンダムを観るかどうかは本人次第だ」


 先生はゼンマイさんへ向けていう。


「そんなことあるわけないじゃん! わたしはちゃんと『機動戦士ガンダムSEED』と『機動戦士ガンダムSEED Destiny』を観た後、『機動戦士ガンダム』も『機動戦士Zガンダム』も『機動戦士ZZガンダム』も観たし、F91もVも観た! 『機動武闘伝Gガンダム』だって! それから『ガンダム Gのレコンギスタ』も『∀ガンダム』も! だから、アイコも……」


「それはお前がおかしいだろ。高校生で何千時間ガンダムに費やしてんだよほかにやることあるだろ。勉強しろ、お前通信簿見てないのか」


「そんな! 先生だって……」


「そういう人もいる。そうじゃない人もいる。お前はガンダムの何を見てきたんだ」


「それは……先生が言えたこと?」


「うるせえな。いいか、ホンナ。ガンダムには関わるな。ガンダムなんてまともな奴は観ない」


 急に先生はわたしに向き直り、さも当然と言い放つ。


「え?」


「先生!」なぜかゼンマイさんが吠える。それを、先生は冷静に手で制す。


「ガンダムは命懸けなんだよ」


「?」


「先生本当に思想が強いよね」


「だがな、ホンナ」


 先生はゆっくり一呼吸置く。


『機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning』を観て、どう思った?」


 そして、わたしに言葉を促した。わたしはゆっくり深呼吸して、言葉を探す。心臓の拍動が静かになるに従って、ゆっくりと思考が固まっていく。


「面白かった、と思います。なんて言ったらいいかわからないけど。なんだか、きらきらしてて」


「そうか、それならよかった。いいか、ホンナ。前半は気にするな。シャアが出てきてガンダムに乗って失踪する。それでいいんだ」


「でも、それじゃあキシリア様のその後や、そもそもアムロがどこ行ったのか、とか、レビル将軍の今とか、セイラさん、否、アルテイシアだって今後の絶対にキーマンになるのに……っていうかほとんど一瞬触れただけだから、なんでシャアがザクの爆弾外したのかも、キャスバルだって……逆に気になるところがたくさん……」


「いいんだよ、そういうのは。人の感想にもいろいろある」ヒートアップしそうになったゼンマイを、先生は再び窘める。


「あ、あとシャリア・ブルがすごくよかったです。あの人は『機動戦士ガンダム』に出ていた人、なんですよね」


 シャアの相棒として全編を通じて出ていたナイスミドル。口髭が印象的な彼のことに言及する。親友男男死別粘着追想巨大感情。


「媒体によって違うが、シャリア・ブルは原作だと一話しか出てない」


「あの出番の数で? 二人は親友なんじゃないんですか」


 シャアとの出会い、どうやらスパイを任されていたらしい背景、そしてシャアとの共闘、バディ、信頼感、そして喪失。終戦後も規則を破ってシャアの影を追う一人の男。間違いなく、『機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning』の主役の一人だ。


「シャリア・ブルは本当に一話しか出ない。覚えてるやつが異常だと思う。ほんとブラウ・ブロが出なかったらわからなかった」


「あれ? じゃあ、マヴとかは……?」


「そんな戦術無い。おれも初めて聞いた。だから、気にすることはない。ゼンマイこそ思想が強いからあれこれ言うが、『機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning』は『機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning』として楽しめる。『機動戦士ガンダム』を知っている人間からすると、知っている物語なのに全く違う内容で進行するあのifの展開が衝撃的なだけだ。ただ前半、多少『機動戦士ガンダム』の流れを汲んでいてそこばかりが取り立たされるが、ホンナみたいに別のところを楽しんだっていい」


 ドズルは死んだみたいだけどガルマは生きてるみたいだし、こういうところも架空戦記として考察のし甲斐があって楽しいのは別だけどな、と先生はぶつぶつ言う。


「その……シャリアさんがシャアを追いかけているところの軸と、マチュ達の交錯具合とかは、本当に先が気になるなって……きれいなガールミーツガールで」


「そうだな。あの辺はまさに榎戸洋司さんの得意分野って感じだったな、『フリクリ』とか『トップをねらえ!2』なんて知らないか」


「すみません」


「いや、謝ることじゃない。前半の展開から一転、鬱屈した世界観の中で宇宙規模の広いことじゃなくて個人の小さな、それでも見過ごせない色んな問題を丁寧に拾って『人生の転機』の物語にしようとするところは型通り、というと陳腐だが、間違いなく今後も面白くなるところだ。『機動戦士ガンダム 水星の魔女』にもそういう要素はあったと思うし、好きなところを観ればいい、なくなったら観なければいい」


 さすが、一応先生だと思った。だんだん気持ちが楽になる。


 そう、『機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning』の前半は展開も早くてついていくのが大変だった。顔半分が紫色の布で覆われている人が出るところまでですごい時間が飛んで行ったきがするし。


 とはいえ、後半になるとわかるところもたくさんあった。マチュとニャアンのガールミーツガール。そして、腹に一物を抱えていそうなそのほかの面々。


「クランバトルのメンバーにもきちんと背景がありそうだったし、マチュのお母さんも今後重要なポジションになるって感じがあって、本放送が気になる作りだったのは本当に良かったです。それに、バトルシーンも見応えがあって」


「そうだな。『シン・ヱヴァンゲリヲン』を思い出す……いや、ごめん」


「いえ、大丈夫です」わたしは一瞬だけゼンマイさんを盗み見る。彼女の顔には困惑がまだ張り付いていた。わたしはゆっくり深呼吸した。


「ごめんなさい、ゼンマイさん。急に大声出したりして」


 わたしは頭を下げる。そして、顔を上げた先、なんと目に涙を湛えたゼンマイさんがいた。


「わたし、ガンダムは全部観るのはできないと思う。あのね、前に少しだけ見ようとしたけど、やっぱり絵柄が……」


「う」


「だけど、ゼンマイさんに『機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning』観に行こう、って言ってもらえたは嬉しかったし、面白かったのも本当。だから、放送が始まったらまた、お話もしてほしい……」


「それは、そりゃそうでしょ!」ゼンマイさんは椅子に座り、わたしの手を取る。あったかい。


「わたしこそごめん。先生と勝手に盛り上がって。多分先生ここで採点してると思ったから」


 先生の眉がピクリと上がる。だが、何も言わない。多分空気を読んでくれたんだと思った。やっぱり一応大人なのだ。


「大丈夫。ただ、先生とゼンマイさんがあまりにも盛り上がってびっくりして」


「本当は三人でもっと盛り上がれると思ったんだけど、本当にごめん。まさかアイコが『機動戦士ガンダム』どころか劇場版『機動戦士ガンダム』すら観てないとは」


「お前はいい加減にしろ」先生が溜息交じりに言う。わたしは改めて呼吸を整える。そして、いう。


「……それから、わたしでも観れるガンダムってないかな」


「アイコ……!」


「わたしももっとガンダムのこと知りたい!」


 きらきらしているかは、わからない。ただ、先生とゼンマイさんがたった三十分から四十分程度のあの『機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning』の冒頭で盛り上がっていたのは、羨ましかった。


 ――わたしは、二人だけがいた向こう側が観たいのだ。


「それで、わたしも二人みたいになりたい」


「それはやめといたほうがいいと思うぞ」


「わかった! 何がいいかなあ。えっと、じゃあめちゃくちゃ面白いし『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』なら、いや、短いけどちゃんとまとまってる『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』?」


「それこそ『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』でいいだろ。あれはとにかく見やすい。それに、シャアがメインで出てくるし、宇宙世紀の流れもよくわかる。逆シャアはそれこそ、面白いけどきちんと宇宙世紀のことが分かったうえで見てほしいとは思わないのか、ゼンマイは」


 先生にそういわれ、ゼンマイさんは押し黙る。


「そうなんですか?」


「そうだ。まあ、なんだったら主人公のビジュアルで選んだっていい。興味を持った奴から見ればいいんだ」


「エラン君似のキャラかあ」


「別にそういうわけじゃ……」


 勝手に顔が熱くなるのを感じる。


「それにほかに見てるアニメもあるし、全部観れないかもしれないから期待しないで」


「そうなん?」きょとん、とゼンマイさんは目を見開く。さらにその眉に不安がにじんでいるようにもわたしは感じた。慌てて、言葉を足す。


「でも『機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning』は観るから大丈夫」


「そっか。あ、でもさ、思うんだけど」ふと、ゼンマイさんの顔が曇った。


「なに?」


「アイコ、エラン君好きでしょ。だから言いづらいんだけど、シュウジ君は死ぬよ。と、ガンダムが言っている」


「なっ……」わたしは言葉を詰まらせる。先生はやれやれ、と首を振った。


「……やっぱりガンダムのこと好きになれないかも」






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 ■前作

【ネタバレ有り】劇場版『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』の感想と亡霊の話です。

 https://kakuyomu.jp/works/16818023212609472052




 また、宣伝になってしまい恐縮ですが普段は以下のよう小説を書いています。


【短編】ダンジョンに眠る冷凍食品を探せ!※このエルフは冷凍食品を食べないと死にます

 エルフは雪と人に恋をする ~冷凍食品異世界転生物語~

 https://kakuyomu.jp/works/16818093091100049142/episodes/16818093091100064639



【連載中】【男装女子】姉の最期の願いを叶えるために男装して女人禁制の勇者学園に潜入して■■■■を盗撮するわたしのラストミッションhttps://kakuyomu.jp/works/16818093089111401687/episodes/16818093089111428974

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【ネタバレ有り】劇場版『機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning』の感想です。 杉林重工 @tomato_fiber

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