沈黙の教室

夏空 花火

第1話

 式は、滞りなく終えた。コツン、コツンと教室に足音が響く。

教壇に立つ。

教卓の上に国語の教科書が一冊、ポツリと置かれている。

だれも座らない席をゆっくりと見渡す。

式では、笑顔で見送ろうと必死に我慢した。

こぼれ落ちそうになる何かを見せまいと何度も顔をそらし、こっそりと目元をぬぐった。

でも、もう誰もいない。

黒板に振り向き、黒板消しを手に取る。

教室を綺麗にするのが担任としての最後の仕事。


『卒業おめでとう』


 その周りの生徒一人一人のメッセージ。イラストも可愛く添えらえている。

『ありがとう先生、また会おう 青木』

『先生みたいな先生になる 飯島』

 生徒の顔を思い起こし、心に刻みながら消してしく。

『ごめん、教科書返し忘れてた 田中』

 教卓の上の教科書を、チラリと見、目じりにしわを寄せながら、ふっと笑う。

しょうがないなあ、とまた消していく。

いつの間にか頬には、熱を帯びた何かが流れていく。

廊下には、鼻をすする音が小さくこだまする。

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沈黙の教室 夏空 花火 @natsuzora-hanabi

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