第46話
柚菜は何か言いたそうにオレの様子を窺っていたが、しばらくは無言のままだった。なんか気まずい。仕方なく、オレから口を開く。
「やっぱさ」
「ん!?」
「部活の後だとキツい?ほら、すぐ寝ちゃったから」
今日の出来事は全部夢だったんだよ、と印象付けたくて、寝ていたことを強調してみた。実際午前中から合唱部でお昼を挟んで勉強って、それなりにキツいはずだ。
「ん、うん、まあ。いや、大丈夫」
柚菜がごにょごにょ言いながら目を逸らす。いつもの調子と違ってやりにくい。しばらく黙っていたら、今度は柚菜から話し出した。
「あの、さ」
「うん」
「あったじゃん。小学校のとき」
「うん?」
幅広すぎて分からん。
「ほら、三年生のとき。なんか、疑われて。私が」
「うん?……ああ、あったね」
三年生のときっていうと、たぶんアレだ。その頃流行ってたキャラがあって、誰だったかが限定グッズのキーホルダーか何かを持ってきた。柚菜がそれを欲しがったけど、当然譲ってくれるわけがなくて。柚菜も引き下がったけど、そのキーホルダーが無くなって、柚菜が盗んだんじゃないかって疑われた。
「あの時さ、柊真だけだったよね。私がやってないって言ってたの」
「他にもいたでしょ。みんなが疑ってたわけじゃない」
「みんな、うっすら私がやったって思ってたよ。先生だって『決めつけるのはダメ』って言っただけだったじゃん。それ、やったかもしれないけど証拠が無いって意味でしょ」
「いや、そんなこと」
「そうだよ。誰も『そんなことするわけない』って言ってなかった。柊真だけ、だった」
「まあ、柚菜がやるわけないじゃん」
柚菜は確かにはっきり口に出すし好き勝手に見えるけど、人のものを盗ったりするような奴じゃない。保育園から一緒だし、それくらいのことは分かってた。そう思って答えたら、横から大きな溜め息が聞こえてきた。
「本当にさあ」
「ん?」
「そういうとこが本当にさあ!」
「何だよ!?」
急に不機嫌になってキレている感情の乱高下に戸惑っているうちに、柚菜のマンションに着いた。小走りでエントランスに入っていく背中を呆然と見送る。
「気をつけろよ、バーカ」
「は?」
「じゃーね。バイバイ」
捨て台詞を吐いてエレベーターに乗り込む柚菜を見送り、オレはしばらく立ち尽くしていた。何なんだ?意味分からん。なんでいきなり小学校の時の話?で、なんでオレがキレられてんの?オレ何か悪いことした?とりあえず。
女の子が大声で「トイレ」は無いだろ。今更なツッコミが、オレの頭の中だけで響いた。
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