自称ロミオに執着されてます。 兄編

第41話 自称ロミオに執着されてます。(14)兄編

「おかえり、早かったね琉兄。……てっきり夜帰ってくると思ったのに」


 アイスを一口食べてから、朱里は何食わぬ顔をした。玄関に佇む兄の、琉斗の眉間の皺は、深いままだ。

 

「ただいま。なんだその格好」

「やっぱり言われると思った」


 思わず肩をすくめる。

 別に下着とはいえ、厚手のブラトップだし。家の中なんだからいいじゃないか、と朱里は思う。

 

「んーとね。今日、2月なのに暑かったじゃない?微妙に厚着で大学行っちゃったから、帰り熱くて。お兄ちゃんたち来る前に、シャワー浴びてさっぱりしようって。で、髪乾かす前に、アイス食べたくなっちゃったの」

 

 怒ったその顔を見ないようしながら、飄々と言う。琉斗は大きくため息をついたかと思うと、朱里の肩を掴んで、後ろに向かせた。そのままぐいぐいと、肩を押され浴室へと連れて行かれる。

 

「それはいいとして、まずまともな服を着てから居間に出ろ」

「いいじゃん別に。こっちの方にはお弟子さんたち来ないし。松江さんも、買い物中だし」

「お前な、そういう問題じゃないんだよ。宅配とか来たらどうするんだ」

 

 また始まった──。これは昔からだが、母親以上に、琉斗は朱里の行儀や服装に口うるさかった。


「玄関先に置いてくださいって言うし。別にこのままでも出れるから」

「絶対、やめろよ」

「本当に琉兄は過保護」


 喧々と小言を言われ、小さな口を尖らせる。

 朱里は振り返って、大きな灰色の瞳で琉斗を仰ぎ見た。


「それに家族しかいないじゃん、今」


 瞬間、琉斗は口を結ぶ。何か言いかけたかと思うと、眉間の皺がさらに濃くなって。長くため息をつかれる。

 朱里はなんとなく、形勢が逆転した気がして畳み掛けることにした。

 

「それと琉兄、彼女、また変えたでしょ」


 なるべく無表情で告げる。切れ長な三白眼の目が、少し、揺れている。

 

「……なんで分かるんだよ」

「……別に何となく」

 

 だってこの間と違う香り、移ってるし──。

 

 正面を向くと、持っていたバニラアイスをぱくりと食べる。

 

 琉斗は、私のお兄ちゃんなのに──。


 姿を知らない相手を思って、眉間に力が入る。

 そこはかとなく、いらいらした。

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