第8話 優しいけれど、過保護な兄(5)
中学生の時に起きたあの一件以来、琉斗は朱里を意識するようになってしまった。自分の気持ちを否定する度、その思いは強くなっていった。自ら気になって、従兄妹同士の婚姻が認められるのか調べたことがある。
法律上は問題ない、という文字に、一瞬心が透いた直後、暗澹たる気持ちになった。
それは片方の親がという場合であって、自分の場合は両親のどちらも朱里の親類だ。血が濃すぎる、気がした。法律的に問題はなくとも、道徳的には問題があるだろう、と琉斗は思った。そも、養子とはいえ兄妹として育ってきたのだから、世間が許してくれないだろう。
そして何より、身内からそういう目で見られる気持ち悪さを、琉斗は誰よりも理解していた。朱里に、大切な人に、そんな思いはさせたくなかった。琉斗はこの気持ちに、頑丈な鍵をかける事にした。
それでも、居間で勉強している朱里が、顔を赤らめながら同級生から貰ったであろうラブレターなどを見ている時は、心が揺らいだ。琉斗の気配に気づいて、弾かれたように手紙をノートの下に隠した朱里に、「稽古のことで、父さんが呼んでいた」などと、事なげに嘘をついた。朱里がパタパタと玄関から外に出るのを確認してから、その手紙を一読し、顔を歪ませる。
夕食の支度をする家政婦の後ろを何気なく通ると、勝手口を出る。その庭先に、落ち葉を燃やす焼却炉があった。琉斗はその手紙を文字など分からなくなるまでビリビリに破くと、焼却炉の中にばら撒いた。その時琉斗は、笑っていた。
母屋から帰ってきた朱里が血相を変えて手紙を探す姿を、琉斗はテレビに夢中な振りをして、横目で見ていた。しばらくして、おずおずと「緑色の封筒見なかった?」と尋ねる朱里に、「知らない。お前が無くしたんじゃないのか」と、彼はテレビから目を逸らさず言う。それはひどく冷たい横顔だった。背後で家政婦に泣きつく妹の声が聞こえた。
琉斗に、罪悪感はなかった。
朱里に、妹に纏わりつく虫を叩き落としたところで、罪悪感など湧くはずもなかった。
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