第4話


休日


いつもより少し遅めに起きて、う~ん、と伸びをする稀依


窓から見える秋晴れの空に誘われて

カジュアルなスウェットとTシャツに着替え、キャップを被り

ペットボトルのお茶を用意して、スニーカーを履く


ドアを開け、マンションの階段をカンカンカンカン…と降りて行く


思ったとおり、澄み渡った空気が心地良い

気ままに進み、時折、スマホの地図アプリを開いて確認する


(ちょっと遠いけど…行けなくもないか…行っちゃおうかな♪)


ズンズン進んで向かった先は、自宅から6駅分ほどの距離にある繁華街

その町の真ん中ほどにあるレコードショップに辿り着くと

イベントブースを食い入るように眺める


大々的に展開された魔界貴族の特設ブースだった


だがお目当ては、ラジオパーソナリティ匡輝のニューアルバム

(あった♪…(´∀`*)ウフフ)


素顔を見せない魅惑のアーティスト。ジャケットも抽象的で

特設ブースに飾られた魔界貴族と、つい比較してしまう


(…あんな風に、カッコいいに決まってるんだわ♪)


中央で威風堂々とポーズを決めるヴォーカルの金髪王子

稀依の勝手な妄想を具現化した姿に、満足そうな笑みを浮かべる


レジでアルバムを購入し、稀依は店を出る


「さて…いい加減、疲れたな(苦笑)帰りはバスでいっかな…」


ふぅ~っと大きく息を吐きながら、駅前のバスロータリーに向かう


稀依が店を後にした数分後


黒髪を縛り上げ、サングラスをした男性がレコードショップに現れる

店員に声をかけ、売り出し中のアルバムに添えられたポップに

サインをし始める


「ありがとうございます!!売れ行きも好調ですよ♪」


店員が嬉しそうに声をかけてくる


「そう…。だが、配置が悪いな。よりによって、魔界貴族が隣とは…(汗)」


自嘲気味に呟く匡輝に、店員は首を被り振る


「そんなことありませんって。ついさっきも、若い女性がお買い上げ

でしたよ。ジャケットの写真を見ながら、嬉しそうにニコニコしちゃって…

可愛かったなあ…(笑)」


「…へぇ…。物好きもいるもんだな(笑)」


「もう!すぐそういう事を言って~…。いいですよ。今日のことも

きっちり宣伝しちゃいますんで!すぐ、SNSに挙げますからね」


「ああ…そうだな。よろしく頼む」


数十分後


帰宅した稀依は、SNSに流れてきた情報に愕然とする

(え…ええっ…………)


情報発信された時刻と、自分が店を出たおおよその時間を確認する


(うそ…マジか………………)


こんな風に、ガッツリ意識している癖に、どういうわけか

彼らはニアミスばかりですれ違う


ひょっとして、「何故だ―――――💢💢」と窓を開けて叫べば

あるいはもう一度、郵便受けを確認しに玄関ドアを開けば

その存在に気づけたかもしれないのだが…







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