第9話 期末試験はトラブルの素

冒険者学校とは将来冒険者なることを目指す若者が冒険者になるべく専門的な知識と技術を学ぶ学び舎である。

学校なのだから当然、試験というものがある。

試験は学校の授業で学ぶ学科試験と、ダンジョンに潜る実地試験だ。

この二つの試験結果によっては即退学となる。厳しいかもしれないが、冒険者とは常に死と隣り合わせの職業だ。この処遇には死を急ぐのではなく、生き残るために別の未知を模索して欲しいというためだ。退学処分を受けても、普通校や職人になるための学校への編入、斡旋もあるためその待遇は悪くない。

勿論、退学されても諦めきれずに冒険者となろうとする者もいる。そんな人達を止める人はいない。自己責任でという言葉が付くが。

期末試験の学科テストは中学レベルの国語、数学、社会と宗教学に特化した神聖学の他に隣国で使用される言語と冒険学という植物や生物に関するものと、基本的な魔法学といったものがテストとして出される。

どれもが世界を股にかける冒険者を目指すなら再低減学んでおく必要のあるものばかりだ。

幸い、主人公は決して頭の悪いほうではない。内容も授業をしっかり受けていれば点数が取れるものなので、あまり苦労はしなかった。


問題は実地試験のほうだ。

ここでは好感度の一番高いキャラともう1人。新しく登場するエルフロリキャラとパーティーを組むことになっている。

あまりまわりの好感度を上げようとしてこなかったので誰が来るのか予想が出来なかった。普通にプレイしていたならメインチョロインが来るのだが………


「やあ、君と組めて本当に嬉しいよ」


エクス・カリパーだった………

意外すぎだ……


そしてもう1人。ロリキャラ担当。


「ロロリだよー!よろしくきゅるん♡」


殴りてぇ。


目の前にいるゴスロリの服を着て可愛らしくポーズを決めている彼女。

ロリリ・ミュータシオンを見た第一印象がこれだ。

ゲームの中ではあざといわーとしか思えなかったキャラが現実にあらわれるとこうも印象が変わるものなのか。


兎に角痛いのだ。


見た目は小学生くらいにしか見えないが、中身は16才の女の子である。見た目もそれで喋り方も子供っぽいため小学生かよ?と言いたくなるのだが、本人はそのことを一番気にしている。

そのことはベッドシーンで本人の口から明らかになるのだが………………


興味ない。


そもそもタイプじゃない。

それを言い出したら、全てのヒロインが該当するから口にするまでもないが。


そんなことを頭の片隅で思いながら、今回のパーティーの編成のことを考える。

優秀なタンク要員であるエクスにアタッカーで斥候もやる俺。そして後衛の遠隔火力の高いロリ。


うん、悪くない。寧ろバランス取れた良いパーティー。バランスの良い山本さんも絶賛するだろう。


「目標到達階層は15階層。大丈夫。僕達なら行けるさ」


エクスは笑いながら言う。

確かにこのパーティーなら問題なく到達することは出来るだろう。ゲームでは、このテストで変なイベントが起きることもない。

学生生活の日常としての描写だけだった。

ただ、このダンジョンは5階層ごとに敵が変化する。始めはスライムなどの単純な敵から始まり、5階以降は角の生えたホーンラビットなどの獣系が出始める。

そして10階層以降からは知性を持った敵がエンカウントし始める。言ってしまえばここからが本番と言ってもよい。

油断は禁物だ。

俺達はダンジョンへと潜っていった。


敵は獣系をはじめとしてゴブリンやオークがエンカウントする。確率としては獣系が多いが、下へと進むにつれて知性のある敵のエンカウントが多くなる。そしてどんどん知性も高くなるのだ。

そうなれば当然バックアタックを仕掛けてくる可能性もあるが、既にバックアタックを回避する斥候スキルである警戒は取得済みなのだ。


「後ろ、近付いてくる気配がする。戦闘準備!」


バックアタックを狙ってゴブリン族が襲いかかってくるが既に対策済みの俺達にあっさりと迎撃される。

バックアタックは食らうと厄介なことこのうえない。ゲームでは1ターンはこちらの行動はできないし、その1ターン目は敵によってはクリティカルの発生率が上がるのだ。それで後衛が一撃で落とされたなんてのはよくあることだ。

それを防ぐ警戒スキルは斥候を持つキャラをパーティーに入れないなら冒険者として必須スキルだ。


ダンジョンの課題攻略は順調に進んでいる。ペースも悪くない。

途中、昼休憩で持ち込んだレーションを齧りながらマッピングした地図を眺める。


「ロリリ達すごくなーい?すごいよねー!」


10階からスタートして現在は13階層を攻略中。敵との遭遇を避け、来ても即応出来るように小部屋の隅で身を隠しながら小休憩を取る間、ロリは絶えず俺とエクスに話しかける。

しかも声がデカい。

これじゃ敵に襲ってくれと言っているものだ。

ゲーム中、よくぞこの主人公はこのキャラとうまくやれたものだと感心すら覚える。


「なあ、ロリリ。ここが何処だかわかっているのか?ここは学校内の施設とは言えダンジョンだ。大きな声を出していれば徘徊する敵に居場所を気取られる。襲ってくれと言っているようなもんだ。話すなとは言わないが、もう少し声の大きさを抑えてくれ」


「えー!なんでそういう意地悪するのぉ?!」


このバカ人の話を聞いてねえのか?

思わず頭を抱えた。


「ロリリ君。彼の言うことも尤もだ。もしここが学校外の本物のダンジョンなら君の行動はパーティー皆を危険に晒す行為になる。彼は君の為を想って言ってくれているのさ」


「う〜カリパー君が言うなら信じるけど〜」


俺の言う事は信用しないんかい。

思わず深いため息が出た。


「さて、そろそろ行こうか。順調に来ているとは言え、あまり長く休んでいては攻略に失敗するかもしれないからね」


俺達は荷物を纏めると、次の階層へと向かっていった。このまま行けば攻略目標を達成するまでにそう時間は掛からないだろう。

そう信じて疑わなかった。


このとき、俺達は誰も予想すらしていなかった。

あんなことが待ち受けているなんて、想像すらしていなかった。




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