灯未太郎

 むかーしむかしあるところに、たいそう目つきの悪いお兄さん(虎道)と、そんなお兄さん好きをこじらせ過ぎているお姉さん(卯衣)が住んでいました。


 ある日、お兄さんが山へ芝刈りに行こうとするとお姉さんもついてきそうで話が全然進まないので、ふたりは川へ釣りに行くことにしました。


 すると、川からとても大きな桃がどんぶらこー、どんぶらこーと流れてきます。


「おおっ! あれはかなり大きいな!」

「お兄ちゃん、厚生労働省による果物の一日の摂取目安量は200g程度だから、あんまり食べ過ぎちゃダメだよ」

「世界観壊す発言をするな!」


 そんなやり取りをしているうちに、桃は見る見るうちになくなっていきます。


「……えっ?」

「桃が減ってるね……?」

「何が起きてるんだ……?」


 よく見ると……


 桃の中から小さな顔や手が飛び出し、自分で桃を食べているではありませんか!


 そうして桃がすっかりなくなった頃、そこにはすくすくと育った幼女が川に流されていきます。


「勝手に育つな!」


 お兄さんは思わずツッコんでしまいますが、なんだかんだ人がいいので彼女を助けるのでした。


「兄ちゃん、ありがと」


 初対面にも関わらず、幼女は馴れ馴れしく礼を言いました。


「桃しか食べてないから、お腹すいたなぁ」


 果てにはそんなことまで言う始末。


「あはは、じゃあきび団子でもつくろうか」

「えっ、ホントに? じゃあご馳走になっちゃおうかな」


 お姉さんの言葉に、幼女は目を輝かせます。


 そうして二人の愛の巣━━もとい、家へ行くことになった幼女。


 彼女は桃を喰らい尽くしたことで、 桃食い太郎と名付けられようとしましたが、自分で 「私は灯未太郎。よろ」と名乗りました。


 彼女は図々しく家に居座りながらも、なんだかんだ二人と絆を深め、不気味なほどの速度でどんどん成長していきます。



 ある日━━


「鬼が出たぞーーー!!」


 村のモブキャラからそんな悲鳴が上がります。


 その報せを聞いた灯未太郎は、ものすごくめんどくさそうな顔をしました。


「兄ちゃん、お姉。私、鬼を倒しに行くよ」

「灯未太郎……」

「灯未太郎ちゃん……」

「ホントは行きたくないけど、私が行かないと話が進まなそうだし、このままじゃ本編を楽しみにしてる読者さんに申し訳ないしね」

「今更だがメタだな……」

「灯未太郎ちゃん、きび団子いっぱいつくるから、これで鬼をやっつけてくれる仲間をたくさん見つけるんだよ」


 お姉さんはそう言って、せっせときび団子をつくる準備に取りかかります。


「えっ、まじ? さすが、お姉」

「……………」


 横で黙って聞いていたお兄さんが、ぼそりと呟きました。


「……全部は食うなよ?」

「やだなー、兄ちゃん。いくら食べ盛りの灯未太郎ちゃんでも全部は食べないよ」



 ━━道中、灯未太郎は山ほどあったきび団子を全部食べてしまいました。



「お腹いっぱい……」

「……鬼退治に行くんじゃないんですか?」


 ごろごろ転がる灯未太郎に、呆れながら話しかける者がいます。


「だれ?」

「犬の和音です」

「犬が喋った!」

「話が進まないので、その手のボケはやめてください」

「あっ、はい」


 犬の淡々とした口調に、思わず敬語で従ってしまう灯未太郎。


「で、何しにきたの? もしかしてお供? 見ての通り、きび団子もうないよ?」

「はい、わかっています。私は、あなたのお兄さんとお姉さんの甘く切ない恋物語が聞ければそれで満足です」

「うわぁ……」


 こうして引き気味の灯未太郎に、犬の和音が半ば強引に仲間になりました。



「デュフフ」

「んあ、なにやつ」


 突然、 どこからともなく気持ちの悪い笑い声 が聞こえてきました。

 振り返ると、そこにいたのは一匹の太った猿です。


「猿の雨季でござる。鬼退治の助太刀にきたでござる」

「帰ってください」


 犬の和音が、一切の情けもなく言い放ちます。


「酷くない? ……で、ござる」

「そうだよ。タダで手伝ってくれるんなら連れてこうよ」

「はあ……。灯未太郎がそう言うなら仕方ないですね……」

「やった! これで拙者も勇者パーティの一員でござる!」


 猿が上機嫌に踊りだすと、二人はとても不機嫌になりました。

 

「それで、雨季は何が出来るの?」

「拙者はバナナを上手に剥くことが出来るでござる! 」

「…………」

「…………」


 まあ、猿だし。


 灯未太郎たちは猿の雨季をやっぱり連れて行かないことに決めましたが、勝手についてきて勝手に仲間になりました。



「ところで、鬼ヶ島ってどこにあるの?」


 灯未太郎の言葉に、二匹は首を傾げます。


「なんで二人とも鬼ヶ島の場所知らないのさ。そんなんでよく鬼退治とか言えたね」


 灯未太郎は自分も知らないくせに冷たく言い放つのでした。


「鬼ヶ島の場所なら、あたしが知ってるわ!」

「なんかさっきから勝手に集まってくるなぁ……。で、どなた?」

「雉の翠鳥よ!」


 そこには、とても小さな雉がいました。


「ちっさいね」

「……ぶつわよ?」

「口悪いな」


 悪態をつきつつも面倒見がいい雉の翠鳥の案内で、一行は鬼ヶ島に辿り着くのでした。



「なんでわたしが鬼なんですかぁ……(詩愛)」

「しょうがないよ、鬼しか配役が残ってないし……(知勇)」

「あ、鬼じゃない人(?)たちが来たっす!(絵馬)」

「自分もきび団子食べかった(闘志)」

「ふぁぁ……ねみぃ……(竜雅)」

「俺ら、チームワークねぇなぁ……(亥緒)」


 鬼の軍団はあんまりやる気のない者の集まりでした。


「あ、鬼だ。よし、いけ家来たち(灯未太郎)」

「誰が家来よ!(翠鳥)」

「灯未太郎、お兄さんとお姉さんの甘々話の続きはよ(和音)」

「拙者たちもチームワークなさ過ぎて草なんだが(雨季)」


 ですが、やる気のなさでは灯未太郎軍団も負けてはおりません。

 それに、配役的に灯未太郎たちが勝てる可能性はほぼゼロです。


 すると━━


「灯未太郎!」


 そこに現れたのはお兄さんでした。


「え、兄ちゃんじゃん。なしてここに?」

「お前ばかり危険な目に合わせてたまるか。俺も戦う!」

「兄ちゃん……」


「あれが生お兄さま……(和音)」

「ほう、危険を顧みず……(雨季)」

「ふーん……(翠鳥)」


「お兄さん、いい人っすね……(絵馬)」

「かっこいい……(詩愛)」

「うん……(知勇)」

「悪くねぇ(亥緒)」

「師匠と呼ばせてもらいます(闘志)」

「今日からオレたちは親友だ(竜雅)」


 いともチョロくお兄さんは、家来や鬼たちのハートをキャッチしたのでした。



 こうして。


「はぁ〜、頑張ったらお腹すいちゃったな」

「あんた、何もしてないでしょ!」


 お兄さんがリーダーになった『鬼いさん一味』は、村に帰って皆でボケと、主に雉によるツッコミの絶えない幸せな日々を送るのでした……。



 めでたし、めでたし。

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