第5章

5−1

 高坂は国に忍び込んで盗みをしろというけれど……。


「そこまでの義理はねぇだろっ! そんなことよりエルフたち弱ぇんだから、人質に取ってナルーさんに元の世界に帰してもらおうぜ」

「うーん、そうだな」


 単純か。でも元の作戦はそんな感じだったはずだ。エルフは案外弱い。高坂は手ごわいやつだが、オレでも素手で勝てた。昨日は変な魔法をかけられて手出しできなかったけど、魔法がなければ大したことはない。


「聖女よ、戦士たちを強くしてくれましたか?」


ナルーさんだ。オレはシュンを捕まえると、高坂にも視線で合図する。しかし、高坂は「?」と言った感じだ。


(だーかーら! お前も人質を取れっ!)

「!」


 やっと気づいたか。高坂はディディの手首をつかんだ。


「ナルーさん、オレらを元の世界へ帰せ。さもなくばこの戦士たちを殺るぞ」

「……おや、それは物騒な。というか……」

「いでででで!?」


 急に頭が締め付けられるような感じがして、シュンから手を放す。


「お兄ちゃんのばぁか。魔法が効く相手には、容赦なく魔法使うに決まってんじゃん」


 ベーっと、舌を出すシュン。それもそうだな。だが高坂は効かないはず……。


「お嬢さん、積極的ですね……」

「え!? そ、そうか!?」

「ちげぇよ!! たぶらかされてるんじゃねぇよ!!」


クッソ、ナルシストエルフたちの顔面偏差値が無駄に高いせいで、マジックキャンセルできる高坂の戦意を喪失させるのはたやすいことなのか!! 盲点だ。


「っていうか、高坂! おめぇ西東京にいたときはイケメンを土下座させてその頭おもっくそ蹴ってたって聞いたぞ! なんでエルフには弱ぇんだよ!」

「だって、一応聖女だし。サキ、まぁ怒るなよ」

「怒るわ! 元の世界に戻る気あんのか!」

「……ねぇかな」

「へ!?」


 思ってもみなかったひとことに、オレは大声を上げる。戻る気がない?


「だって、元の世界に帰っても、女子に絡む男の駆除しなきゃいけないし、どうせケンカ三昧だから。ここならそこそこ敬ってくれるじゃん」

「うっ……敬うんだったら、オレだって!」

「……え?」


 オレの言葉に変な顔をする高坂。そりゃそうだ、タイマン勝負申し込んできた野郎が、自分を敬っているとかのたまってきたらびっくりするだろう。

 オレも自分で思っていなかった言葉が口から出たので、必死に弁明する。


「うっ、敬うっていうか、なんつーか!! おめぇを倒したいっていう西東京のやつらはいっぱいいるってことなんだよ! おめぇに勝つことがステータスになってるっつーか!」

「ああ、そういうこと。だったら余計に元の世界に帰りたくない」

「はぁっ!? おめぇ……そんなにこの逆ハーレム状態が気に入ってるのか?」


 キラキラ輝く鏡石と周りにいるイケメンナルシストエルフたちを見回す。

 ……うん、そりゃあな。ケンカに明け暮れる生活より、イケメンたちに囲まれているほうがいい。でも、こいらは……。


「おい、高坂! 騙されんな! こいつらはナルシストだし、そもそも女はちやほやしねぇぞ!」

「でも私は聖女だからな?」

「本当にそれでいいのか? この村……メシがゲロマズだぞ?」

「!!」


 ぼそっと言うと、高坂は反応した。


「もう焼き肉もラーメンもカレーも食えねぇ……いるのは絶対に自分にはなびかない、ナルシストたちだけ……本当にこの世界にとどまっていていいのか?」

「うっ、そう言われると……」


 高坂の決意が揺らいできたと思っていたら……。


「ナルー様! 聖女のねーちゃんは一緒にコフィン国へ偵察に行ってくれるそうです!」

「……潜入して、防具を盗んでくるの、協力してくれるって」

「へぇ! それは助かります」


 ウィンとヴィーナが余計なことを言う。くそっ!!


「聖女よ、戦士たちの守護をお願いします。そこの下僕も」

「オレ、下僕扱いかよ……さっさっと元の世界に戻りてぇ」

「コフィン国の戦士の、マジックキャンセルする防具を手に入れてきてくれれば、その願いを叶えてあげましょう」

「本当か?」

「まぁ、できたら一生コフィン国から私たちを守ってほしいのですが」

「それはさすがに……」


 高坂もオレの「メシがまずい」発言は気にしたようだ。オレから見たら、最初から嫌だったけどな。男しかいないし、うざいナルシストしかいねぇ村なんて。しかも村は全部鏡張りみたいなもんで落ち着かねぇし。ここに住みたいと願うやつは、きっとエルフたちしかいないだろう。


「でも、変装はしなきゃダメじゃないか? 何か服とかないのか? 私もサキも、この世界にはなさそうな格好をしてるし、目立つ。お前らはキラキラしすぎてて、うざい」

「変装だったら、あたしに任せて!」


 手を上げたのはネオだった。さすがオネエだ。

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