4−4

 ――翌日。


「あー腹へった……」

「あんだけ食って、お前はまた腹へってるのか。毎度毎度腹の音で敵に勘づかれるのやめてほしい」

「うっせえ!」


 起床。

 オレは腹をさすりながら。今朝、メシどうすんだろ。っていうか……。


「おい、高坂。おめぇ寮抜け出してきたんだろ? 大丈夫か?」

「あー……。でも今は夏休みだからな。届け出出すのは忘れていたけど、実家帰ってましたって言えばいい」

「おめぇが大丈夫っていうなら、気にしねぇけど」

「大体な! お前がケンカしてぇっていうからこうなったんだぞ!? 責任取れや!」

「いや、おめぇがあんなテレポート試験場なんかに連れてきたからこうなったんだろ!? 帯電体質だっていうのも聞いてねぇ!! おめぇの責任だっ!!」

「あ? 朝から元気だな……やんのか、ア?」

「上等だ! 外出んぞ」

「あのー、ご飯持ってきたんだけど……」


 ディディだ。メシと聞いたオレたちは、一時休戦する。


「タイマンはメシのあとだ」

「だな」


 こういうときだけ息が合ってしまうのはどうかと思うが、ケンカにはエネルギー補給が大事。メシを食っていなければ、相手に負けてしまう。よく食って、よく寝ないと、クオリティの高いケンカはできないのだから。


「なんでボクまで手伝わされるのさー」

「シュンのおじちゃん、文句言わないでよ」


 ディディと一緒にメシを運んできてくれたのは、シュンだった。

 メシ! と聞いて一瞬喜んだけど、オレは昨日の宴に出てきていた料理の味を思い出した。……うん、腹には溜まるんだけど、うまくない。いや、むしろまずいんだよな。パンみたいなものは石みたいに固いし。


「お姉ちゃんたち、どうぞ」

「……なぁ、おめぇらはこのメシ、うめえと思ってんの?」

「え? おいしいも何も、食事は食事じゃないかな?」

「栄養補給するためのものでしょ? 何言ってるの、サキ」


 不思議そうに首を傾げるディディとシュン。もしかしたら、エルフ……この村の住人は、メシというものに重きを置いていないのか? シュンは『栄養補給』と言い切ったし、食えればなんでもいいと思ってるのか。


「うまいメシ、食ってみたいとは思わないの?」


 高坂も不思議に思ったのか、シュンに質問する。


「おいしいご飯より、ボクは自分のかわいい姿を見ていたほうが心の栄養になるから☆ じゃ、食べ終わったら昨日の広場に来てね? 聖女のお姉ちゃん!」

「あ、ああ……」


 ナルシストエルフ野郎に、高坂も言葉をなくす。自分の姿なんて見ても腹なんて膨れねぇだろうが……。呆れつつも、オレたちはメシに手を付ける。


「……うん」

「……うん」


 お互い、一口食べてうなずく。やっぱり、まずいもんはまずい。だが、食べないと死ぬ。


「エルフにメシを恵んでもらってると思えば……!」

「でもこのスープ、雑巾の味がするだろ、高坂……」

「わかってる! でも、厚意で恵んでもらっているものにケチをつけるわけにはいかねぇだろ! それが仁義ってもんだ! 私は食う!」


 昨日の晩のように空腹じゃないから、味がよくわかる。本当に心底まずい。これを根性で食おうとしている高坂は、女だけど漢だ。オレも負けてはいられない。しぶしぶくそまずいスープを流し込み、石のようなパン的な物体を咀嚼すると、オレたちは昨日宴が開かれていた村の広場へ向かった。

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