第13話 二十四時間営業の喫茶店D(上本町駅)

 今回は、僕が24歳の頃の話です。

 

 各地を転々とする職業に付いて居た僕は、事情が有りその職を辞して故郷の瓢箪山に帰って来ました。


 取り敢えず収入をと思い立ち、新聞広告からある喫茶店を選びました。

 店名は承諾を得て居ない為、喫茶Dとして置きます。


 面接を受けると直ぐにOKが出て次の日の夜から働く事に成りました。

 以前の職が24時間のシフト制だったので深夜の勤務には成れて居ました。


 上本町駅近くのその店には様々な客が来て居ました。

 とは言う者も、僕が知り得たのは深夜に関してだけです。

 日中の方は窺い知れませんでしたから~。


 当時、テレビゲームが流行って居て、遅くまで、人によっては朝まで店に居座って居ました。


 週に一度程、女装をした男性が現れました。

 慣れないハイヒールに足を取られ、ホールをぎこちなく歩いて居た事を覚えて居ます。


 直接会った訳は有りませんが、俗に云うチンピラが懐に拳銃を忍ばせていたとも聞いて居ます。


 

 僕の仕事はウエイターその者でした。

 二階の客の注文を取り、食器専用のエレベーターで伝票を下に下ろし、出来上がって来た品をテーブルに運びました。


 どう云う訳か、カレー等に添える福神漬けが二階の僕の定位置に置いてありました。従って、僕は上がって来た皿にその福神漬けを添えると云うひと手間を掛けて居ました。

 

 真夜中、客足が途切れた頃に夜食を頂くのですが、それまでに空腹を感じた時は

その福神漬けをほおばって居ました。

 その頻度が重なるに連れ、福神漬けが嫌いに成って行きました。

 今はそれ程でも有りませんが、福神漬けを見る度にその頃を思い出してしまいます。


 知り合いからの誘いがあり、一か月余りでこの喫茶Dを辞めました。



 この喫茶Dに関しては後日談が有ります。

 かなりの年月が経ってから事です。


 どうした巡りあわせか、僕の弟がこの喫茶Dの近くの割烹料理店に勤める事になったのです。


 弟がその喫茶Dに行き、僕の事を尋ねたそうです。

 店の人は僕の事を覚えて居て、

『ホールだけでなく、厨房の方もと考えて居た時に(僕が)辞めた』

との事でした。


 やはり、俗に云う、

『世間は広いようで狭い』

者の様です。


 

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