第6話 菖蒲(あやめ)池遊園地

 僕が小学生の頃の話です。

 学校の年中行事の一つの遠足であやめ池遊園地に行きました。

 学年ごとだったと思います。

 移動手段は電車でした。


 小学校から最寄りの瓢箪山駅まで、まるで、蟻の行列の様にして向かった事を覚えて居ます。


 先生が時折、

「ほらっ、拡がらないで、一列になって」


『わいわいがやがや』

 蟻の行列は駅へと向かって行きました。


 駅の改札口ではひと騒動です。

「押すなよ」

「早く、進んでよ。後が閊(つか)えてるんだから」

等々~。


 ホームに生徒が溢れかえります。


 確か、貸し切り電車だったと思います。

 その電車がホームに入って来て停車するや否や、蟻の団体は車内になだれ込んで行きます。

 ここでも、

『キャッキャ、キャッキャ』


 電車が動き出すと少しは静かに成ります。



 枚岡駅、額田席、石切駅と通過して行くとトンネルが口を開けて待っています。

 僕はこのトンネルが苦手でした。


 全長4,737メールのこのトンネルの中を走っていると、このまま別世界に連れて行かれるような気がして成りませんでした。



 僕の母の実家が奈良県の吉野に在り、そこに帰る時もこのトンネルを通ります。

 その他も加えると、このトンネルを通った回数はかなりの数だと思います。


 後々の事ですが、トンネル恐怖症とも言えるモノが僕の身に付いたのは、恐らく、このトンネルのせいだと思います。


 未だに、少々長いトンネルを通って居ると、電車であれ、車であれ、何とも言えない不安と恐怖に苛(さいな)まれます。


 もしかすると、僕の閉所恐怖症もこのトンネルのせいかもしれません。

 なんにせよ、トンネルが好きな人はあまり多くは居ないと思います。




 話が逸れてしまいました。

 そう云う事も有るんだと聞き流して下さい。



 学園前駅を過ぎると次は目的地の菖蒲池(あやめいけ)駅です。

 今は無くなって居ますが、ここにあやめ池遊園地が在りました。


 入場口に生徒が連なります。

 ここでも、

『押すな!』

『押してへんし』

等の声が飛び交います。


 勿論、団体割引です。

 幾らだったかは流石に覚えて居ません。


 遊園地の中に入ると、丸い形状の噴水が有ります。

 その手前で僕たちは整列させられました。

 集まるごとに生徒の掌握が行われます。


 漏れて居る者が居ない事の確認が取れると、又、蟻の行列が動き始めます。

 噴水が有る広場から右へ、目的地は円形大劇場です。

 そこで、OSK日本歌劇団のショーを鑑賞させられます。


 殆どの児童はそれを始めて目にした事でしょう。

 僕もそうでした。

 

 華やかな衣装を身に纏(まと)い、所狭しと艶やかに歌い踊る姿は、ぼんやりとですが今も覚えて居ます。


 確か、その後は動物園に向かったと思います。

 当時、奈良県では唯一の動物園だと聞かされました。


 行列に成って一回りすると、昼食、それに引き続き自由時間と成りました。


 園内には多くの遊戯施設が在りましたが、有料なので、僕なんかはどれにも拘われませんでした。


 ただ。遊園地の奥の方に在った、射撃場には興味を覚え、なけなしのお金を使い楽しみました。射撃と言っても、先で動いている標的の戦車を狙い、小指の先ほどのプラスチック製の丸い球を打つだけの事でした。

 でも、何故か、それが僕の頭の中には未だに鮮明に残って居ます。



 ボーリング場も在ったそうですが、僕の記憶には残って居ません。


 午後三時頃だったと思います、再び、噴水の前で集合です。

 決まって、こんな時に遅れて来る児童が居ます。


『先生、○○くんが居ません』


 しばらくすると、場内アナウンスの声が、


『○○小学校の〇年〇組の、○○さん。みなさんが噴水の前で待って居ますので、速やかにそちらに向かって下さい』


なんて言うように流れたように覚えて居ます。


 元来たコースを学校へと返るのですが、この頃になると児童の騒がしさは影を潜めて居ます。

 みんな、疲れて仕舞って居たのでしょう。



と、まぁ、あやめ池遊園地駅に纏(まつ)わる話の一つを紹介させて貰いました。


 

 先にも触れましたが、あやめ池遊園地は2004年6月6日で持って閉園したと資料で知りました。

 残念なことでは有りますが、それも時の流れに従ったのでしょう。

 ちなみに、2001年に開業したUSJがその後押しに成ったそうです。

 

 次は、どの駅にしようかと記憶を辿って居ます。


 余談ですが、この後、僕は二度、このあやめ池遊園地に足を運んでいます。

 中学生の時と、成人してからです。

 どちらの時も、僕の隣には彼女が居ました。


 

 

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