第2話 母親と
僕だけでなく、電車で通勤、通学をしていた人それぞれに多少なりともエピソードが在ると思います。
先ずは、母と僕との共通のエピソードを紹介して置きます。
瓢箪山駅近くの線路脇に幼子をおんぶした婦人が佇(たたず)んで居ました。
夫と死別し途方に暮れていたのは僕の母でした。
線路に飛び込もうと足を進めると、その背中で僕が泣き出したそうです。
その声にほだされて母は思い留まったそうです。
死ねないのなら、生きるしかない。
母の死闘とも言える日々が始まりました。
瓢箪山駅から永和駅まで、満員の乗客に押しつぶされそうになりながら母と僕は手を繋ぎ合っていました。
時にはその手が解(ほど)け、身動きが取れず、目的地の永和駅に降りれない事も有ったそうです。
その都度、先の駅で降り、引き返す事を強いられたようです。
永和の駅から徒歩で10分ほどだったでしょうか、僕が預けられる保育所が有りました。
母はそこに僕を託すと、又。今度は下りの電車に乗り込みます。
行く先は母の一つ目の職場がある枚岡公園でした。
そこで、母は公園の維持管理の仕事をして居ました。
言って見れば、日雇い仕事です。
夕方、仕事を終えると、今度は僕を迎える為に電車で永和駅まで~。
一旦、僕を瓢箪山駅近くに有ったアパートに送り届け、母は二つ目の職場に向います。
一人残された僕の世話は同じアパートの住人が引き受けてくれて居ました。
母の二つ目の職場は、布施駅近くの飲み屋街に有りました。
『角兵衛』と云う店で母は遅くまで働いていました。
帰りの電車は最終に近いものばかりだったそうです。
都合、母は一二日六回の乗り降りをして居た事になります。
尤も、日曜祭日は除きますが。
電車の運営会社から見ればお得意さんになるでしょうね。
そんな日々を三年あまり続けて居たのですから、今思えば感謝しか有り得ません。
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