バルタンに渡した薔薇色の人生
乙島 倫
バルタンに渡した薔薇色の人生
私は昔からバルタンの大ファンです。そうはいっても、バルタンは文字通り、私にとっては遠い国の方です。バルタンと私はいつも離れて暮らしています。私はバルタンのことを知っていますが、バルタンは私の事を知りません。バルタンは地球上の全人類に名の知れた存在ですが、私は何の特徴もない一市民にすぎませんから仕方ありません。
私はバルタンの顔が好きです。特につぶらな瞳が好きです。鼻も頬も大好きです。まあ、普通はあの声が好きだという人の方が多いんですけど、私はあのバルタンの容姿が大好きです。自室の部屋の壁はバルタンの写真であふれています。
いつか、バルタンに会ってみたい。そんな気持ちが日々強くなっていきました。でも、バルタンは別世界の住民。そんな願いが叶う訳がありません。ああ、バルタン、いつか会いたい。いつか会いたい。
どういった経緯かわかりませんが、バルタンが日本に来ることになったと聞きました。はじめは驚きました。あのバルタンが東洋の小国である日本に来るわけがないと思ったのです。でも、ネットで調べました。SNSでも調べました。バルタンは日本に来ることになっていたのです。しかも、バルタンは若い頃、日本に来ていたことがあったそうです。今度の来訪ではバルタンに会えるかもしれない。私の胸が高鳴りました。
私はいてもたってもいられずバルタン到着時間を調べ上げました。そして、私は空港に向かいました。バルタンならば、きっと飛んでくるはずです。だとしたら、空港に来るに決まっています。だから、私は空港に向かったのです。
でも、本当にバルタンが来るんだろうか?空からくるだろうという私の予想が外れたらどうしましょう。しかも、到着時間の直前であっても、空港の中の人たちはまったく平静としていて、慌てる様子はありません。私はだんだん不安になってきました。
そしたらです。地平線の彼方から飛んできました。バルタンは定刻通りに空港の滑走路に着陸したのでした。
バルタンに会える。バルタンに会える。私の期待はピークに達しました。
私は少しでもバルタンに近づきたいと思って、必死に駆け寄りました。しかし、私の体を遮る腕が伸びて私の進路を遮りました。警備隊です。
「あぶないから、下がって」
警備隊は私の動きを制止します。あとちょっとでバルタンなのに、なんていうことなのでしょうか?でも、私はその場から「バルターン。バルターン」と必死に叫びました。
すると、奇跡が起きました。バルタンがこちらに気づいてくれたのです。バルタンがこちらに向かってきます。すると、警備隊は私を解放し、バルタンの前に差し出しました。
私は前もって必死に覚えた異国語でバルタンに挨拶します。そのバルタンはにっこりとした笑顔で私の求めに応じてくれたのでした。ああ、何ということでしょう。遠くの国から日本に来て疲れているはずなのに、こんなにファンを大事にしてくれたのです。バルタンは何か私に話しかけてくれましたが、バルタンは異邦人。何を言っているのかわかりませんでも。でも、次の瞬間、バルタンは私の右手を固く握手してくれました。もう、あなたのとりこです。
私は、空港から帰る時になって、私はとんでもないミスを犯したことに気づきました。シルビィ・バルタンは私の求めに応じてCDジャケットにサインしてくれました。でも、手渡したCDは別の歌手のものだったのです。
そのCDはエディット・ピアフの「ラヴィアンローズ(薔薇色の人生)」でした。エディット・ピアフもフランスの歌手で、フランスつながりで、ピアフとバルタンを棚に並べていたので間違えて持ってきてしまったのでした。
さて、この文章を読んでいる方は、バルタンって誰やねんて思ったかもしれませんね。紹介が遅れていました。シルビィ・バルタンは、1944年生まれのフランスの歌手です。代表曲は 「アイドルをさがせ」、 「悲しみの兵士」、「あなたのとりこ」 、「哀しみのシンフォニー」などです。「あなたのとりこ」は映画「ウォーターボーイズ」の挿入歌として聞いたことがある人もいるかもしれませんね。
シルビィ・バルタンは、フランスの歌姫の名前なのに、なぜか、円谷プロはウルトラマンの敵キャラの名前にしてしまいました。バルタン星人です。はっきりいって、シルビィ・バルタン当人からしたら意味不明だったことでしょう。
そのラヴィアンローズも日本のアニメの中では、宇宙空間の補修艦の名前になっています。これもエディット・ピアフが知っていたらきっと、びっくりしたのではないかと思っています。
バルタンに渡した薔薇色の人生 乙島 倫 @nkjmxp
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