ポイにゃん

雪兎

第1話 ある少女と猫の話


「美沙!起きなさーい!」


「…はーい」


気怠い声でそう答えたのは、葉山美沙(ハヤマ・ミサ)10歳、アパートで母親と二人暮らしをしている、普通の小学生だ。


「美沙、知ってる?この辺は最近地域猫が増えたみたいよ」


「へー…そう言えば最近猫見かけるよ私も」


「やーねぇ、居座られて車に傷でも作られたらたまらないわ」


「母さん猫嫌いだもんね…。」


そう、美沙の母は猫が嫌いだった。

なんでも昔、飼っていた犬の目を、その地域のボス猫に引っ掻かれて、犬は片目になってしまったのだと言う。

それなら嫌いになっても仕方ないが、美沙は猫がどちらかと言うと好きな方だったので、その話に登場する犬について同情はするものの、どうせしつこく吠えたのだろうと思っていた。


***


そんなある雨の日、アパートに帰って来た美沙は、赤い階段の下で丸まる白い猫を見つけた。


「おぉ!ニャンコ!どうした!?」


近づいて撫でようとすると、美沙は猫の様子がおかしい事に気づいた。


「…ひょっとして、産気づいてる!?」


白猫のお腹は大きく、苦しそうに目をつぶっている姿にすぐにピンときてそう言うと、とりあえずアパートの部屋に運び、美沙はお湯を沸かしたりタオルを用意したりした。


「頑張れー…あとちょっとだよ!」


白猫は産気づいて暫くした頃、三匹の子猫を産んだ。

美沙は生き物係で、前にうさぎの出産に立ち会った事があったので、三匹の子猫のヘソの尾を取り、体を緩いお湯で洗ってやったり、的確に出来る事をしてやる事が出来た。

しかし、母猫はその後、痙攣を起こした。


「嘘!?どうしよう…頑張って!」


猫の体をさすったり、心臓マッサージをしたりしたが、母猫はそのまま息を引き取った。

母猫が死んで子猫達をどうしようか考えているうちに、美沙の母が帰って来た。


「ちょっと何よこれ!?」


「お母さん…あの…。」


飼ってもいいか尋ねる前に、母親は鬼の形相で言った。


「捨ててらっしゃい!そうするまで家には入れないわよ!」


そう言われ、ダンボールに入れられた三匹ごと外に出された。


「どうしよう…。」


美沙は涙ぐみながら、三匹を公園に連れて行き、ダンボールごと下におろした。


「ごめんね…さよなら!」


美沙は三匹に別れを告げ、走ってアパートに帰った。


***


美沙が家に帰ると、白い母猫は埋められたあとだった。


「たく!土にかえしてやっただけ、感謝してもらいたいわよね!」


「…。」


美沙は母と口をきかぬまま、眠りについた。


***


その深夜のこと。

やけにドラ猫の鳴く声がするなと思い起きると、何故か美沙はダンボールの中にいた。

そしてドラ猫が顔を覗かせ言った。


「ポイにゃんポイにゃんポイポイにゃーん!ボクはポイにゃん!葉山さんちの美沙ちゃんいらない子、捨てちゃおう!」


「えっ!?何!?やめてー!?」


美沙が捨てられそうになり、体を丸めると、捨てた三匹の事が頭をよぎった。

寒くはないだろうか、お腹は空かしていないだろうか、もし死んでしまったら、頑張って産んだ母猫は。


「ごめんなさい!私責任取るよ!もうあんな事しない!これからは生き物を大事にする!だから…。」


美沙がそう泣きながら言うと、大きなポイにゃんは消えて行き、白い母猫が笑ったように見えた。


***


そして美沙は飛び起きると、急いでガウンを羽織り公園へ走った。


「ごめんねごめんね!大丈夫!?」


三匹の子猫は無事だった。

まだ目も開けられない子猫達をダンボールごと抱える美沙を見て、追いかけて来た母親は息を切らしながら笑うと言った。


「そうよね…捨てるなんて出来ないわよね。母さんが悪かったわ。だから一緒に帰りましょう」


「母さん…じゃあ!?」


「…飼っていいわよ」


美沙は嬉しさのあまり、その場でギャンギャン泣いた。


***


その後、美沙は猫の保護施設の代表となって、日々地域猫や保護猫と向き合っている。

もちろんあの日助かった三匹ともまだ一緒に暮らしている。

もし、貴方が猫を捨てたりしようとしたら、ポイにゃんが現れるかもしれません。

こんな風に歌いながら。


「ポイにゃんポイにゃんポイポイにゃーん」

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ポイにゃん 雪兎 @yukito0219

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