第7話 サプライズ
そのままメモリさんと部屋を出て、食卓のあるダイニングキッチンへ向かう。
「ソータ先生、ご飯の後はお風呂も楽しみにしていてくださいね。元々旅館だったこともあって、寮のお風呂は広くて気持ちがいいんですよ。源泉から温泉を引いていますから、旅の疲れもとれると思います♪」
「えっそうなんだ? すごいね楽しみだよ!」
さすが元旅館、至れり尽くせり。メモリさんのご飯と温泉が楽しめるだけでも十分来てよかったと思える。
そんな状況に心が躍ったとき──突然目の前がふっと真っ暗になった。
「えっ!? ──て、停電!?」
「あ、古い建物ですからたまにあるんです。大丈夫ですよ、ソータ先生。こちらへ」
僕と違って冷静なメモリさんは、暗闇の中で僕の手を掴み、優しく導いてくれた。真っ暗で何も見えないけど、メモリさんは慣れているのか躊躇する様子もない。
そして少し歩いたところで、パッと電灯が復活した。
「──えっ?」
安堵と同時に困惑する。
目の前に、制服姿の見知らぬ女の子たちが四人立っていた。
『星宮寮へようこそ!』
パンパンパンパン!
弾けるような音の連続に「わぁっ!?」と驚いて尻餅をついてしまう。そんな僕の頭に煌びやかな色の紙テープやらがもっさりと乗った。
何度も目をパチクリさせて辺りを見る。四人の子たちの周囲には、パーティー会場みたいな飾り付けが行われていた。
「だ、大丈夫ですかソータ先生?」
「あ、う、うん。ちょっと驚いちゃっただけで」
すぐにメモリさんが手を貸してくれて立ち上がる。この紙テープ……そして四人の子たちが手に持っていたものからも、先ほどの破裂音はクラッカーの物だとわかった。
「ほら、やっぱり驚かせすぎちゃったじゃない。新しい先生に何かあったら大変だったわよ? ねぇあなた、怪我とかしてないわよね?」
「けどサプライズってそーゆーモンじゃない? しーちゃんだって乗り気だったじゃーん。てゆーかマジで男の子だよ男の子! ヤバー!」
「驚かせてしまってごめんなさい、なの」
「臀部異常なし。問題はないようです」
最後にそう言った子がいつの間にかこちらの背後に回って僕のお尻を凝視しており、思わず「ほあっ!?」みたいな声が出た。
「ごめんなさい、ソータ先生。実は他の寮生がいないというのは嘘で、サプライズで歓迎会の準備をしていたんです」
「あ……そ、そういうことだったんだ? かなりびっくりしたけど、で、でも嬉しいよ。ありがとう」
僕がそう言うと、メモリさん以外の寮生たちがホッとしたような顔をする。
「みんな、新しい管理人の『風見ソータ』先生だよ。まずは自己紹介しよう」
「あ、風見ソータです! よ、よろしくお願いします!」
頭を下げる僕。
すると最初にツインテールの女の子が前に出てきて、長い髪を払ってから言った。
「『
「うん。こちらこそよろしくお願いします、夜蝶さん」
「シアでいいから。それにあなたの方が年上なんだし敬語もいらない」
ちょっと素っ気ない口調ではあったけど、この短いやりとりでも絶対に悪い子ではないとわかる根の真面目さみたいなものが感じが伝わってくる。
長くて綺麗なツインテールが特徴的な夜蝶さんは、スラッとしてモデルさんみたいな子だった。ちょっぴりツンとした印象にも見えたけど、真っ先に僕の心配をしてくれたし、やっぱり良い子なんだろうな。
「ハイハーイ! じゃ次はウチねっ。『夜蝶メア』十五歳です! 中三! しーちゃんとは年子の姉妹だよ。しーちゃんみたいに運動神経よくないけどぉ、好きなことは全力でやるよ! いつも元気でイケイケなとこが
「あ、うんっよろしくね」
笑顔で僕の手を取ってぶんぶん振るように握手してくれたのが、ギャルっぽいノリでグイグイきたメアさん。シアさんの妹みたいだ。
毛先を遊ばせている感じの明るい金髪で、大きな瞳はキラキラしている。そしてスクールカーストのトップ層にいそうな陽キャオーラを纏っており、下層住まいだった僕はちょっぴり気圧される。うおお。
続いて自己紹介してくれたのは、僕の服の裾をぎゅっと掴んでいた小さな女の子。
「『
「あ、うん。よろしくねリリムさん」
にこっと笑うリリムさん。
年齢もあるだろうけど、メモリさんやシアさんメアさん姉妹と比べるとまだ幼さが残っていて、大人しそうな子という印象だった。
ふんわりと柔らかそうなロングヘアーと、彼女自身の儚げな雰囲気も相まって、こう、ドレスとかが似合いそうなお姫様っぽい感じがする。あと、お兄ちゃん呼びされてしまったせいか妹っぽさを感じた。
「初めまして、先生。『
と言いつつクールな無表情でダブルピースを決めるのが、先ほど僕のお尻を凝視していたユイさん。
クールな顔立ちと綺麗な三つ編みの髪が印象的で、なんというか、ものすごく美人で凜とした雰囲気があるのに、それとは似つかわしくない言動が面白おかしい。なぜか紙テープを集めて頭に乗せていたし、意外とボケてくるタイプの子なのか……!?
そんな感じで自己紹介タイムが終わり、最後にメモリさんが締めてくれる。
「シアちゃん、メアちゃん、リリムちゃん、ユイちゃん。それに私を加えたこの五人が、現在の寮生となります。本島はもう一人入寮している子がいるんですが……その子は事情があってしばらく本土で生活をしているんです。ですから、今はこれで全員ですね」
「そ、そっか。ええっと……」
「ソータ先生? 何か気になることでもありましたか?」
「あ、えっとね、その、薄々そうなのかなって思ってはいたんだけど……」
メモリさんやみんなが、「どうしたんだろう?」みたいに不思議そうな顔をする。
僕は、何気にずっと気になっていたことを尋ねることにした。
「あの……ひょっとしてここって、女子寮……!?」
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