第2話 南雲瑞穂さんは遭難している

 卯辰山。金沢市内にある山で、標高一四一メートル。そこまで高くはないが、金沢のまちを見渡すことが出来る。

 頂上までは車で行く人の方が多いだろうが、歩いても行ける。

「体力と筋力! 己の肉体こそパワー! 山があれば登れ! 己の足を信じて登れ!」

 という親(ジム経営者)の教えのもと育った自分にとっては、ちょうどよいランニングコースでもあった。

 土曜日。

 今日も今日とて、えっさほいさと緩いスピードで慣れた坂道を駆け上がっていく。

 ようやっと涼しさを感じられるようになった十月半ば。運動するのに適した季節だ。

 爽やかな風と木々の緑の澄んだ匂い。

 それを胸いっぱいに吸い込んだところで、

「ぜはーっ、はーっ、ぜはーっっ、はーっ……」

 遭難者を見付けた。いや実際、遭難はしてないのだが、あまりに死にそうな呼吸なので、ついそんな言葉が過ぎった。手を置いている膝は震え、肩の上下はふいごを思わせる。

 市街地がすぐそことは言え、ここは山である。標高は高くないが、確かに山ではあるのだ。

「だ、大丈夫ですか……?」

 ゆえに、死にかけの登山者が居ても可笑しくない、はずだ。……いや、この季節でこんなことになってる人、あまり見たことは無いけれど。

 自分の声掛けに、遭難者がぷるぷると顔を上げた。赤い髪に緑の瞳。

「……南雲さん?」

 謎多き転校生の彼女が、遭難者であった。

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