第3話 姿勢が変わると心も変わる
翌朝、彩は鏡の前に立ち、自分の姿勢を改めて観察してみた。肩が内側に丸まり、頭が前に突き出た姿勢は、どこか不安定で自信がない印象を与えているようだった。以前は気にしたこともなかったが、篠崎先生の言葉を思い出すと、それが自分の内面をも映し出しているのではないかと感じた。
彩は姿勢を正そうと意識してみた。背筋を伸ばし、胸を開き、顎を軽く引く。鏡の中の自分の変化に驚いた。姿勢が変わるだけで、表情まで明るく見える。なんとなく心も落ち着き、自分が少し強くなったような気がした。
「姿勢ひとつでこんなに気分が変わるんだ…」
彩は、これまで姿勢が単に外見の問題だと思っていた自分を反省した。
その日の昼休み、彼女はスマホで「姿勢と心の関係」について調べた。そこで、「姿勢は感情と密接に結びついており、良い姿勢はポジティブな感情を引き出す」という記事を見つけた。特に背筋を伸ばした姿勢は、自信を持たせる効果があると書かれていた。また、猫背や丸まった肩は、不安や悲しみを助長することがあるとも述べられていた。
「やっぱり、身体と心は繋がっているんだな…」
彩は、その日の午後、意識的に背筋を伸ばしながら仕事をしてみることにした。不思議なことに、姿勢を正すだけで集中力が増し、普段より効率的に仕事が進んだように感じた。
仕事帰り、彩は歩き方にも意識を向けてみた。これまでの自分は、必要以上に早歩きになったり、小さな歩幅で歩いたりしていたことに気づいた。それは、どこか焦燥感や不安を象徴しているようだった。
「せっかくだから、歩き方も変えてみよう」
そう思った彩は、背筋を伸ばし、視線を正面に向け、ゆっくりと大きな歩幅で歩いてみた。すると、周囲の景色がこれまで以上に鮮やかに見えた。いつもは気づかない花壇の小さな花や、子どもたちの笑い声が耳に届く。それはまるで、心に余裕が生まれた瞬間だった。
彩は「歩き方で自分の気持ちが変わるなんて、面白いな」と思いながら、歩くたびに自分の内面が変わっていくような感覚を楽しんでいた。
翌日、彩は職場で同僚の美咲からこんな言葉をかけられた。
「彩ちゃん、なんだか雰囲気変わったね。何かいいことあったの?」
驚いた彩だったが、すぐに理由に思い当たった。それは、姿勢と歩き方を変えたことで、自分が発する雰囲気そのものが変わったからではないかと思ったのだ。人は意識せずとも、他人の姿勢や動きから多くの情報を受け取っているのだろう。
「いいことかどうかはわからないけど、ちょっと自分を見直してるだけかな」
そう答えながらも、彩は内心、自分の変化に少しだけ誇らしさを感じていた。
その夜、彩は自分の身体と心がどれほど密接に繋がっているかを改めて考えた。
「姿勢や歩き方を変えるだけで、自分の気持ちが軽くなって、周りの見え方まで変わるなんて。きっと、身体はもっといろんなことを教えてくれるんだろうな」
彩はこの日、次のような決意をノートに書き留めた。
「これからも、自分の姿勢や歩き方を意識してみよう。それはきっと、心の姿勢を整えることにも繋がるから。」
彼女の人生における小さな一歩は、身体と心の繋がりを深く理解するための重要な一歩でもあった。
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