ジグソーガール 六

 私と灯花はほとんど毎日のように会っていました。灯花は何かあると私を呼び出し、そして私達は体の関係を結びました。登校日の終わりですら、二人で灯花の家にいってまぐわい合っていました。


 そして……もうこれだけ深い関係になっていれば私と灯花を別つ物はないと私が慢心していた二学期の初め、私は奇妙な噂を耳にしました。


『青路渚は赤座灯花を脅して裸の写真を撮って、性的な事を強要している』『灯花は逆らえずに従っているが、本当はクラスの男子とつきあいたいと思っている』『男子は渚の悪行を知っているが、灯花の名誉に関わるので人に話せずにいる』……そんな噂がまことしやかに囁かれる中で、私も灯花も生徒指導室に呼び出されました。


 二人の関係は秘密ですから、私は仲がいいだけだと強弁しました。それでもその日以降、私はすっかり悪者扱いされるようになったのです。


 先生はスマホの中まで見ませんでしたが、見られたなら終わる……と思ってバックアップを複数取ってある灯花の写真の全部を消せるのか分からなくなってきました。気づけば、私は一方的に灯花への加害者の立場に仕上げられてしまったのです。


 そしてそんな中で灯花に呼び出されて言われた事は――甘美な残酷でした。


「もう、私から逃げられないだろ」


 ぞくりと背筋に戦慄が走り、けれどそれは決して嫌な物ではなく、隷属の喜びとでも言うべき物でした。


「全部私の言う通りにしていれば、全部叶えてやるから」


 不的に笑う灯花に、私はボンヤリ頷いて、結局私自身の非を教師の前で認める事になったのです。


 処罰は重たく、散々に怒られた上での退学措置を言い渡された後で、私は灯花に呼び出されました。


「もういく所もないだろ。渚は家を出てさ、私達の隠れ家を用意してくれよ。そこでまだ続けよう」


 答えを濁したまま、私は家でこれを書いています。


 灯花はどうやら家庭に不満があってこんな事をしたらしい……というのは、灯花の両親が灯花に稼げる進路を求めて彼女の夢を妨害するからです。


 そして私を支配する事でその問題を解決する方に向けている……実際、私は灯花のご両親に謝る時、もう灯花はまともな進路も目指せないと言われました。それは、灯花にすれば思うつぼだったのです。だって、親の望まない進路が灯花の夢ですから。


 そして私を利用して『二人の隠れ家』という名目で、好きにできる場所を求めている……勿論、その先にあるのは灯花自身が店を持ちたいという夢なんだと思います。


 一体、私はどうすべきなのでしょうか。


 灯花の事は今でも好きです。その家庭の事情を知ってもっと同情的になっています。けれど、私が悪い事をした(これは事実なので私も否定していません)けれど、見捨てはしないという両親の情けを捨ててまで灯花に従わなければならないのでしょうか。


 けれど灯花との関係がなくなる事を考えると身が引きちぎれるようにつらい……私はどうしようもない袋小路まで迷い込んで、ようやく自分の愚かさを悟り、あなたに相談する事を決めたのです。


 私はこのまま灯花に従って、彼女と生きるべきなのでしょうか。それとも、灯花を捨てて、自分の命を満たす何もかもをなくして空っぽになって死ぬべきなのでしょうか。


 ばらばらになってしまった私の体の最後のピースは、どこにあるのでしょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

短編集2025 風座琴文 @ichinojihajime

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ