第34話「墳丘の守り人」

「さて」

シュブ・ニグラスが目的地のカドー郡に近づいたところで何かを考え始めた。

カドー郡の古墳には入り口が隠されており、そこを下りれば地下世界クン=ヤンなのだが、遠巻きながらも報道が追いかけてきている。

クン=ヤンにはシュブ・ニグラスやクトゥルーを礼拝する熱心な民が少数残っているはずだが、報道陣がその民と衝突するのは避けたい。

恐らくはどちらか(またはどちらも)が主の後藤の怒りにふれる気がする。

とにかく人間がほいほいついてくるには危険すぎる場所だ。

シュブ・ニグラスは別に人間が生きようが死のうがどっちでもいいのだが、主に怒られるのは避けなければならない。

実際には後藤自身がサテュロスによる邪悪な儀式を人間に見せることで、間接的にとはいえ世界規模で何人も絶命させている。

そこから、人類という種そのものに影響を与えない規模の出来事には後藤は比較的無頓着だと読み取れるハズであるが、それをシュブ・ニグラスが悟れようハズもない。

旧支配者は思慮も知能もほとんどない連中が揃っていて、その中でもシュブ・ニグラスは知能も戦闘力もさっぱりな側だった。

オクラホマ州境を越えたあたりで一旦車を止めさせると、あれこれ考え始めた。

そんなことを悩んでいると、途中から合流した卑屈な深きものの町田に声をかけられた。

「畏れながらシュブ・ニグラス様、何かお悩みがあるのでは。」

「うむ、実はな」

シュブ・ニグラスはあっさりしゃべった。

町田は即答した。

「畏れながら申し上げますと、フォーバイフォー殿下とノシバー殿下の両殿下を番人に残し、我々だけで地下へ下りればよろしいのでは。」

「ああ、そうか。」

古墳の場所がバレるのは大した問題ではない。

一般人に入られなければよいのだ。

方針が決まれば、ぐずぐずしている理由はない。

フォーバイフォーをノシバーに追走させて、幹線道路をひた走る。

そしてサクラメント出発から30時間余り。

一行はカドー郡に到着した。

フォーバイフォーとノシバー、町田は睡眠を必要とするので、途中で休養を挟みながらの大移動だった。

そのまま地下への入り口が隠されている墳丘に向かう。

「手はず通り、フォーバイフォーとノシバーはこの地に残って墳丘を守護しろ。」

「仰せのままに。」

シュブ・ニグラスは頷いた。

「あと町田、おのれもここに残れ。」

「私めもでございますか!?」

シュブ・ニグラスは再び頷いた。

「うむ、実際のところ、お前は信用できぬ。気を悪くするな。地上にいる限り、お前は信用できるが、クン=ヤンの中ではお前の血が信用できぬ。」

町田は深きものの末裔だ。

深きものは海中の神殿で様々な儀式を行うが、そこで犠牲になるのは人間の時も同胞の時もある。

最期に儀式を見たのははるか昔だが、その折、生贄になる同胞は暴れても抵抗してもいなかった。

それが恐ろしくて、仲間から離れて暮らしていたのだ。

シュブ・ニグラスの言うことはもっともだった。

「お慈悲に感謝します。」

町田は平伏した。

「その間はフォーバイフォーとノシバーを任せたぞ。」

シュブ・ニグラスは右手を一振りすると黒い仔山羊が2頭放り出された。

片側に後藤を縛り付け、もう片側に自分が跨る。

「町田、もう一点伝え忘れた。この墳丘には元々の守り人もおるはずだ。争わぬよう上手くやってくれ。」

「承知いたしました!」

そう言い残すと二頭の悍ましき黒い奇獣に乗って、シュブ・ニグラスと後藤は穴の中に消えていった。

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