第24話「新たな生贄」
神奈川県警は後藤紳がピエールあやか殺害事件の犯人であるとほぼ確信していたが、それは1か月たっても2か月たっても発表されることはなかった。
また茨城県警も鳴磯団地変死体事件は大量殺人だと結論付け、犯人が後藤紳であることも確信していたが、集団食中毒事件であるとの発表を覆さなかった。
それは対外によって情報の秘匿を命じられたからだ。
事件が明るみになれば、遠かれ近かれ「深きもの」の存在が世間にさらされる。
ミスカトニック大学の研究者によれば日本における深きものの潜在数は全国民の1%に満たないと推測されているが、日本の警察官、自衛官、海上保安官をすべて合わせた人数は日本国民の0.4%に満たない。
彼らを刺激して目覚めさせてはいけないのだ。
目覚めている深きものの日本での活動も後藤紳によると思われる凶行以来鳴りを潜めた。
これまで彼らは定期的に儀式で使う生贄を誘拐するなどして確保していたが、そうした陸上活動の拠点であった鳴磯団地が壊滅したことで早々に本州島から逃げ出し始めた。
そしてこの町田は、それよりも数日早く海浜公園の切り抜き動画をニュースで見た瞬間に危険を察知し逃げた一人だった。
数秒の映像から後藤紳を看破した。
最低限の身の回りの品だけもって逃げたのだ。
深きものでも先祖に近い性質を持つ者は、海を泳いで国外脱出することもいとわない。
しかし、町田は半端者だった。
歩くのが得意というわけでも、泳ぐのが得意というわけでもない。
深きものは同胞でも生贄にするので、役に立たない身内はあっという間に生贄にされる。
若いころから必死で勉強して、自分の価値を同胞に示し続けた。
もう少し、あの後藤が能天気でお粗末な人間であれば……、15年前のあの時に「アクア説論文」を学会にねじ込めていたら……、世界の眠れる同胞を元来歩むべき道に呼び戻せたかもしれない。
父なるダゴンと母なるヒュドラの前に帰順せしめたかもしれないのだ。
しかし、実際に自分が成したことと言えば狂気の殺戮者を世に放っただけだった。
幸い手を尽くして資金を集めた甲斐あって、仮想通貨の形でまとまった金額を手元に残せている。
ひとまずは、黒い殺戮者である後藤と、生贄としての利用価値を自身に求めてくる同胞から逃げなければならない。
最も安全なルートは空路だったので、鳴磯団地を飛び出した足で、そのままネバダ州まで逃亡していた。
あれから3か月。
カジノで遊び暮らしている観光客のようなフリだけしてラスベガスの安宿で質素な潜伏生活を続けていた。
いかに深きものとはいえ、町田のルーツがアジアにあるのは誰の目から見ても明らかなので、排他的な土地には住めない。
アジア人が多い土地でも海が近い場所は怖くて住めない。
そんな折、町田の目を引いたニュースがあった。
イーストサクラメント・ヴィーガンパーティー爆発事件だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます