第2話
「どうするどうするどうするどうするどうするっ! 俺はどうすればいいダイナ!?」
「すすすす、すみません、
「早まるな!? お前が死んだらありすにゃんが悲しむだろう!」
頭部に禍々しい渦巻く角を二本生やす、黒髪黒目の青年――魔王、
その日、魔王城内は騒然としていた。
「と、とりあえず、捜索隊を組め! 我が娘、ありすにゃんを見つけるまで帰ってくるな! ありすにゃんはプリティな金髪ロング、頭にキュートな黒いリボンで一見目立つがめちゃくちゃ華奢で小さいからな、タンスの引き出しまで隅々をよく探せぇ!」
「「「はっ!」」」
「おいダイナ! 腹は斬らなくていいから、俺と一緒にもう一度城内を捜索するぞ!」
「は、はい! では死なない程度に手首など斬ればいいですか!?」
「メンヘラか!」
「新種の魚類ですか!?」
「ちっげーよバーカッ! そんな魚いてたまるか! いーや捌く手間が省けそうだなぁ!?」
「流石は恭一様。博識ですね」
「お前もう末期だから口閉じてろ! ステージ4なんだよ! 頭悪いのが臓器に転移してんだわ!」
何故ここまで魔王恭一とその配下が慌てているのか。それは、恭一の一人娘であるアリスが失踪したからに他ならない。
恭一は過保護すぎる。だから、アリスに何かある度に毎回騒ぎ立て、慌てふためくのが通例なのだが。
「あ、ありすにゃーん! ど、何処に行ったんだ、ありすにゃーーーーん!!」
今回はそのどれよりも慌てていた。それもそのはずである。アリスは城内からよく失踪する。だが、いつもなら恭一はここまで動揺しない。毎回、うるさいにはうるさいのだけれど。それが今回はこの慌てようだ。
恭一は魔力を有するあらゆるものの存在、位置をある程度の距離ならば感じとることができる。しかし今回はいくら集中しても、アリスの魔力を感じることができない。ゆえにここまで動揺しているのだった。
(こんなことは初めてだ。ありすにゃんの魔力は駄々洩れでわかりやすいし、いつも気を配っている。だから見失うはずがないのに、ぷつりと反応が途絶えた。そんなことがあり得るのは、ありすにゃんの魔力が何らかの方法で失われたか、瞬間移動とか異世界転移くらいのもので……ん? 異世界転移……?)
恭一はここで初めて気づく。そういえば好奇心で作っていた異世界転移のゲートが、部屋に置きっぱなしになっていたことに。
「……う、うわああああ! やっちまったぁぁぁぁ!」
(も、もしかして、もしかしてだが、ありすにゃん、どこでもドア初号機で異世界行っちゃってたりしないよね……? ゴー、トゥ、ジャパンしちゃってないよね……? い、いや、あの魔道具はまだ魔力の最適化まで行なっていないから発動には大量の魔力が必要だ。ありすにゃんの今の魔力では到底不可能なはず……、なんだけど)
そう、その通りである。アリスは恭一が作った異世界転移のゲートを見つけた。しかし、見つけただけではアリスの魔力では何も起こらないはずだった。
――〝私〟が手を貸さなければ。
アリスは恭一が過保護すぎて、外出すら思うようにできないこの日常に不満を感じていた。毎日、毎日、必死に頭を使って、城から抜け出す逃走ルートを考えて、そしてそのたびに護衛に捕まる日々に。
恭一も今となっては唯一の家族になってしまったアリスが可愛くて、危険な目にあってほしくないのは十分にわかるのだけれど、あれは些か度が過ぎている。だから、すこーしだけゲートに私の魔力を込めてやったのだ。
この世界と同化し最高神となった私が、直接ヒトやモノに干渉するのは本来ならばタブーなのだけど。これは神としてではなく、母親としてやったこと。きっと見逃してくれる……はず。
……なんて、そんな言い訳は通用しないかな?
恭ちゃんも、過保護すぎるのは良くないよ? 私とあなたの娘が可愛いくて、心配になってしまうのは物凄く同意なのだけど。あなたも昔言っていたでしょ? 可愛い子には旅をさせよ、って。
『さあ、行ってらっしゃい、アリス。世界を、パパの故郷を見て回っておいで』
こうして私は、最愛の娘を日本へと送り出した。
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