12-3 挑戦者たちー黒炎の使い手

鐘の音が高らかに響き渡り、次なる試合の開始を告げると、観客席がざわめき始めた。


掲示板に表示された挑戦者の名前に視線が集中し、一斉に歓声と緊張が広がる。


「ついに来たぞ……クロヴィスだ!」


「本気でやる気だな。あの32位のクロヴィスがレヴァンに挑むなんて……!」


観客たちの声がざわつく中、漆黒の鎧に身を包んだクロヴィスがゆっくりとフィールドに現れた。


彼の背中には巨大な大剣が収まり、歩くたびにその存在感が空間を圧倒していく。


「随分と観客を沸かせてくれたみたいだな。それに、二戦目に俺との試合を設定するとは、舐められたものだな。まさかこの試合、諦めているのか?」


クロヴィスが低い声で言うと、その瞳が鋭くレヴァンを捉えた。


「負けるつもりはない、俺は全力で応じるだけだ。」


レヴァンもまた剣を構え、その場の空気が一気に張り詰める。


フィールド全体が静まり返り、観客たちは息を呑んでその瞬間を待ち構えていた。

次に響くのは、試合開始の鐘の音――そして、風と鉄がぶつかり合う音だ。


「行くぞ!」


クロヴィスの低い声がフィールドに響いた瞬間、大剣が空を裂く音とともに疾風のごとき一撃が放たれた。


その一撃は、重量と速度が絶妙に掛け合わさり、まるで嵐を生み出すかのような迫力を纏っていた。


レヴァンは風の力を纏った俊敏なステップでその攻撃をかわす。

彼の足元には僅かに風が渦巻き、その動きが視覚的に映える。


クロヴィスの大剣が地面に叩きつけられると、衝撃で土埃が舞い上がり、フィールド全体を一瞬で霞ませた。


「速いな、だが今のが俺の全てではない。」


クロヴィスが軽く大剣を振り上げ、笑みを浮かべる。

彼の余裕に満ちた表情が観客席をざわつかせた。


「させるか!」


レヴァンが風を纏った剣を振り抜くと、その刃がクロヴィスの間合いを切り裂くように突き進む。


鋭い一閃が空気を切り裂き、クロヴィスの鎧にかすかな傷を刻んだ。

しかし、クロヴィスは微動だにせず、その場で逆に踏み込む。


「力と技が融合しなければ、俺には届かない。」


クロヴィスが語ると同時に、大剣を水平に構えた。

その構えは、彼の強靭な筋力があってこそ可能な重厚なものだった。


クロヴィスの剣が放つ一撃は、まるで空気を砕くような轟音を伴ってレヴァンを襲う。しかし、レヴァンは風の力を最大限に活用し、彼の攻撃のわずかな隙間を見極める。


剣が交錯するたびに、火花が散り、金属音が場内を震わせた。


「風よ!」


レヴァンが叫ぶと同時に、風の力が彼の剣に宿る。


剣先から放たれる風の刃がクロヴィスに迫るが、彼はそれを難なく受け止め、再び猛攻を仕掛ける。


クロヴィスの大剣が地面に叩きつけられるたび、フィールド全体が震え上がる。


その度にレヴァンは素早い動きでかわし、風の刃を放ち反撃する。一瞬の間に繰り広げられる攻防は、観客たちを釘付けにした。


「その程度の速さでは俺の鎧は破れない!」


クロヴィスの声が響くと同時に、彼は強引に間合いを詰めてきた。

その動きは重く、速い。


巨大な剣が真横に振られると、レヴァンはとっさにバックステップで距離を取るが、その衝撃で彼の足元の地面が裂けた。


「なら、速さだけではないことを見せてやる!」


レヴァンが剣を構え直すと、風の力がさらに激しく彼の体を包み込む。

その瞬間、彼は剣を大きく振りかぶり、クロヴィスに向けて火属性と風属性を複合させた一撃を放った。


「烈火嵐撃(れっからんげき)!」


鮮やかな炎と風の渦を伴った強力な一撃がクロヴィスの大剣にぶつかり、激しい衝突音が轟いた。


剣戟の余波で砂塵が舞い上がり、フィールドの視界が遮られる。


「見事だ、だがまだだ!」


クロヴィスが砂埃を突き抜け、大剣を振り下ろした。

その一撃は、圧倒的な重量と破壊力を誇り、レヴァンは再び風の力を駆使して回避。


ギリギリでかわしたものの、その衝撃波が彼の体を揺さぶる。


「っ......」


レヴァンは息を整え、再び間合いを詰める。


剣が交差するたびに火花が散り、金属音が観客席に響き渡った。彼の攻撃は徐々にクロヴィスの防御を削り始め、次第に大剣の動きが鈍くなっていく。


「さすがだな……だが、ここからが本番だ!」


クロヴィスが叫ぶと同時に、彼の大剣から赤黒い光が放たれた。


星紋術が発動し、大剣の刃が炎のように揺らめき始める。その威圧感はさらに増し、観客たちは息を呑んだ。


「俺を押し切れると思うなよ!」


クロヴィスの声がフィールド全体に響き渡り、その直後、火炎を纏った大剣が唸りを上げながら振り下ろされた。


炎が巻き上がり、地面を裂くような衝撃波が広がる。

爆風に押され、フィールドの砂塵が舞い上がる中、観客たちは息を呑んで見守った。


レヴァンはすかさず星紋術を発動し、風の力を全身に纏わせた。


「風壁(ふうへき)!」


風の障壁が彼の周囲に形成され、熱波が激突するたびに渦を巻きながら弾き返された。


だが、それでもクロヴィスの攻撃は止まらない。


「そんな防御で防ぎきれると思ったか!」


クロヴィスは炎を纏った大剣を振り抜き、再び猛攻を仕掛けた。

大剣が風壁にぶつかるたびに爆発音が響き、炎の塊が障壁を押し破ろうとする。


レヴァンの目には、クロヴィスの一撃一撃が風壁を削り取っていく様子がはっきりと見えた。


「防御を突破するつもりか……!」


レヴァンは眉間に皺を寄せながら、さらに風の力を強化しようと集中を高めた。

しかし、クロヴィスの攻撃は圧倒的な破壊力を伴い、風の壁が次第に揺らぎ始めた。


「お前の防御なんて、力で押し切れる!」


クロヴィスが咆哮し、大剣を再び振り下ろした。


その一撃は炎の柱を生み出し、風壁を打ち破る音が轟いた。弾けるような衝撃がレヴァンの体に直接届き、彼は後方へと吹き飛ばされた。


観客席から悲鳴が上がり、場の緊張感が一気に高まる。


フィールドの中央に立つクロヴィスは、炎を纏った大剣を肩に担ぎ、余裕の笑みを浮かべていた。


「どうした、さっきまでの勢いは。 俺の前ではそんなものか!」


彼の言葉が挑発的に響く中、レヴァンは砂塵の中からゆっくりと立ち上がった。

肩で息をしながらも、その目にはまだ闘志が宿っている。


「簡単には倒れないさ……風よ、俺に力を!」


レヴァンが剣を構えると、風が再び彼の周囲に集まり始めた。


だが、クロヴィスの攻撃力と防御力の高さが、レヴァンを確実に追い詰めていることは明白だった。


「行くぞ!」


クロヴィスはさらに火力を増した大剣を振り回し、連続攻撃を仕掛けてきた。


一撃一撃がレヴァンを狙い、彼の風の盾を徐々に削り取っていく。その動きには一切の迷いがなく、炎の刃が描く軌跡は観客たちを圧倒させた。


「くっ……!」


レヴァンはその攻撃を紙一重でかわし続ける。


風を纏ったステップでクロヴィスの大剣をかわすたびに、剣と風が交差する音が鋭く響き渡る。そのたびに彼の体力は徐々に削られていった。


「これで終わりだ!」


クロヴィスが大剣を振りかざし、地面に叩きつけた瞬間、フィールド全体が揺れた。

火柱が立ち上がり、周囲を飲み込むように広がる炎の壁が形成された。


レヴァンは咄嗟に剣を構え、風の刃を周囲に展開することで炎の壁を切り裂こうとした。


「風の刃よ!!」


青白い光を放つ風の刃が放たれ、クロヴィスの炎をかき消しながら彼に迫った。

しかし、クロヴィスはその刃をものともせず、大剣で正面から弾き飛ばした。


その瞬間、場内には観客たちの驚きと興奮が入り混じった声が響き渡る。


「すごい、あの風の刃を弾いたぞ!」


「クロヴィスの防御力、あれはまるで要塞みたいだ!」


「でも、レヴァンの攻撃もただでは済まない。次はどう出る!?」


観戦席の隅で、セリーネはじっと二人の戦いを見守っていた。

その瞳には、緊張感と期待が入り混じる。


(あのクロヴィスの防御を、風で切り裂こうとするなんてレヴァン、あなたはどこまで進化しようとしているの?)


セリーネの胸の奥に、ざわつく感情が芽生えていく。

それは期待だけではなく、どこか不安に近いものでもあった。


(でも、彼ならきっと乗り越える。)


セリーネの心の中の思いと観客たちの熱気が交錯し、戦場はさらに緊張感を増していく。


「どうした、終わりか?」


クロヴィスが挑発する中、レヴァンは荒い息をつきながらも剣を握り直した。

風の力を再び高め、彼は冷静に次の一手を考え始めた。


「まだ終わらない……!」


レヴァンが叫ぶと、風の流れが彼の周囲に再び集まり、青白い光を帯びた星紋術が発動する。


観客たちはその光景に再び息を呑み、次なる一撃に期待を寄せた。


一方、クロヴィスもまた大剣にさらに炎を宿らせ、強力な一撃を狙っていた。


フィールドの中央で二人の気配が激しく交差し、次の瞬間に何が起こるかを予感させる緊張感が場を支配する。



先に動き出したのはレヴァンだった。

風の刃で牽制しつつ、クロヴィスから距離を置きながら集中を高める。


足元から広がる星紋が青白い光の陣となり、周囲の空気が震え始めた。彼の全身を包み込むように光が渦を巻いている。レヴァンが踏み込むと同時に身体が流れるように加速し、高速で剣を振るう。


「蒼閃舞(そうせんぶ)!」


青白い閃光が剣先から複数の光の刃となって放たれる。

それは旋風のようにクロヴィスを包み込む。


クロヴィスは冷静に対処していた。


彼が剣を高く掲げた瞬間、空気が緊張に包まれる。剣先に漆黒の炎が宿り、まるで生き物のように蠢き始めた。その炎は形を変え、鋭利な爪のような姿を無数に作り出す。


「漆黒の焔爪(しっこくのえんそう)!」


彼の叫びと同時に、黒炎の爪が解き放たれる。


「黒い......炎!?」


(火属性と闇属性の二属性使いなのか?だが、闇属性特有の禍々しい感じはしない。まさか、属性の昇華!?そんなことが可能なのか?)


初めて見る黒炎に驚きを隠せないレヴァンであったが、冷静に黒炎を分析していた。


黒炎の爪は、巨大な弧を描きながらレヴァンが放った刃へ突き進み、地を引き裂くように進む。その軌跡には焦げた地面が残り、空気は焼けるような熱で歪む。


漆黒の爪は、円を描くように周囲を巻き込み、爆発的な熱と力で光となった風の刃を相殺していった。


「流石、クロヴィスだ!」


「あの黒炎、久しぶりに見た。今回はレヴァンも危ういんじゃないか。」


観客席からは興奮と緊張が入り混じった声が次々と飛び交う。


視線が二人の攻防に釘付けになる中、一人静かにその様子を見守るセリーネの姿があった。彼女は何も言葉を発しない。


ただ、じっと戦場を見つめ、その瞳にはわずかな期待と不安が交錯していた。


(レヴァン、あなたならこの状況を打破できるはず。)


セリーネは心の中でそう呟きながら、次の展開を待ち続けた。



「風の刃を相殺して、圧倒しようとしたんだがな。思っていたよりもやる。ならば......」


クロヴィスは炎の力をさらに高め、マナと星紋の力を大剣全体に宿らせた。

赤黒い光が爆発的に輝き、大剣を振り回すたびに火の渦が生まれる。


その渦が一斉にレヴァンを襲い、フィールド全体が灼熱の嵐に包まれた。


「……くそっ!」


レヴァンはその身に風を纏い、風の力をさらに高める。


彼の剣が青白い光を放ち、渦巻く炎を切り裂き始めた。その刃が交差するたびに衝撃波が生まれ、砂塵が激しく舞い上がる。


「俺はさらに強くなる。これが星紋術の真髄だ!」


「獄焔裂界(ごくえんれっかい)!」


クロヴィスが叫び、大剣を地面に叩きつけると、フィールド全体が震えるほどの衝撃が走った。


星紋術が地面に波及し、燃え盛る炎の裂け目が生まれる。その裂け目から赤黒い火柱が立ち上り、レヴァンに向かって襲いかかる。


(この広範囲......避け切れないか。)


「風よ!断風障壁(だんぷうしょうへき)!」


レヴァンは風の力で強化した星紋術で火柱を受け止める。

星紋術で作り出した攻防一体の風の壁は、火柱が迫るたびにせめぎ合い相殺していく。


その光景はまるで破壊と防御が交差する壮絶な瞬間が続いているようで、観客たちは息を呑んで見守った。


風と赤黒い火柱がせめぎ合う中、次の攻撃を準備していたのはレヴァンだった。


「蒼閃舞(そうせんぶ)!」


彼が叫ぶとともに、剣を振り下ろし、無数の青白い光となった風の刃が一斉にクロヴィスを襲った。


その攻撃は彼の一瞬の隙を狙い、大剣の防御をかいくぐる。

鋭い刃が鎧に傷を刻むたび、クロヴィスの表情が僅かに険しくなる。


「くそっ……やるな!」


クロヴィスが後退し、大剣を持つ手を握り直す。

その額には汗が滲み、呼吸が乱れていた。しかし、彼の目にはまだ闘志が宿っている。


「だが、これで終わりではないぞ!」


クロヴィスが星紋術の力をさらに高め、火炎を纏った大剣を振りかぶる。

その力はまるで火山が噴火するかのようで、フィールド全体が赤黒い光に染まる。


レヴァンもまた星紋術の力を剣に宿らせ、青白い光を強く放った。


風と火がぶつかり合い、両者の間で壮絶な激突が始まる。



剣が交差するたびに爆風が生まれ、観客たちの歓声が響き渡った。


フィールドの中心で立ち尽くす二人。


傷つきながらもその闘志は揺らぐことなく、次の一撃が試合の行方を決めることは誰の目にも明らかだった。


「さぁ、これが最後の勝負だ!」


クロヴィスが叫び、大剣を構える。その炎がさらに強さを増し、フィールドを包み込むように燃え盛る。


「来い!」


レヴァンが剣を構え、風の力を極限まで引き出した。

その刃が青白い光をさらに輝かせ、フィールド全体が嵐のような風に包まれる。


観客席は静まり返り、次なる一撃が放たれる瞬間を待ち構えていた。

戦いの行方がどうなるのか――緊張感が場を支配する中、次の一撃がフィールドを揺るがそうとしていた。


「さて、遊びはここまでだ。」


クロヴィスが低く呟き、大剣を地面に突き立てると、彼の体から濃密な星紋術の気配が溢れ出す。


その力は、まるで雷鳴の前触れのような不穏さを伴っていた。


「漆黒の断罪(しっこくのだんざい)!」


クロヴィスが技名を叫ぶと、大剣が黒い光を帯び、地面を震わせるような一撃を繰り出した。


その衝撃波がフィールド全体を駆け抜け、観客たちの歓声が驚愕に変わった。


「断風障壁(だんぷうしょうへき)!」


レヴァンはその一撃を先ほどよりも風の力で最大限強化した星紋術で受け止めたものの、障壁が破壊され、吹き飛ばされる。


先ほどまでいた場所と今の場所の間の地面は大きく抉えぐれ、焼き焦げていた。


「これは……!」


彼は咄嗟に剣を構え直し、風の力を最大限に引き出す。


「防御しているだけでは、俺には勝てないぞ。全力で来い!」


クロヴィスがとどめの一撃を放とうと急接近して来る。


「あぁ......全力で行く!」


レヴァンは風の力を剣に纏わせると、クロヴィスの大剣に向かって全力で斬り込んだ。


「蒼閃嵐舞(そうせんらんぶ)!」


青白い輝きが混じり合う渦巻く強烈な風を巻き起こした。

その風は、まるで嵐そのものが具現化したような力強さを持っていた。


風の刃が渦の中から次々と生まれ、敵を追尾するように駆け巡る。

レヴァンはその渦の中で一歩を踏み出し、全身を風に委ねながら剣を振るう。


その一振り一振りに青白い閃光が生じ、剣先から放たれた光の刃が旋風となってクロヴィスを取り囲む。


凄まじい力の前に、彼は動きを封じられている。


「くっ......動けない!だが...」


クロヴィスは動きを封じられたことに驚きつつも、すぐに笑みを浮かべ、黒い光を纏った大剣を力づくで振り下ろす。


(やはり、イゼリオスを顕現させなければ、あの時ほどの威力は出ないか......)


レヴァンは、風の加護と自らの力で、かつてイゼリオスと完全同調して得た技を発動させていた。


彼は渦の中心に向かって風の刃を形成し、一斉に叩き込む。


その刹那、無数の風の刃がクロヴィスを切り裂き、青白い光が爆発的に広がった。その輝きは夜空を照らす星々を思わせる美しさを放ち、フィールド全体を飲み込んでいく。


「俺は強い!負けるものかあぁぁ!」


クロヴィスの咆哮がフィールドに響き渡る。

その声はまるで獣の咆哮のようで、観客席にまで届くほどの迫力だった。


彼の大剣が空を切り裂き、赤黒い炎を纏った刃が凄まじい勢いで風の刃と激突する。


二つの力が激突した瞬間、フィールド全体が眩まばゆい光に包まれた。

轟音と共に衝撃波が四方に広がり、観客席の防護壁が一瞬だけ軋む音を立てた。


クロヴィスが崩れ落ちる音が響き渡り、嵐が次第に収束していく。


嵐が完全に収束すると、フィールドの中央にはレヴァンが片足をつき、クロヴィスが倒れていた。


お互い、傷だらけの体が戦いの激しさを物語っている。


「……やるな。」


クロヴィスが口元に微笑を浮かべた。

その言葉には、敗北を認める潔さがあった。


「こちらこそ、手強かった。」


レヴァンもまた、剣を鞘に収め、深呼吸をつく。


「勝者......レヴァン・エスト!!」


審判の勝者を告げる叫びと同時に、観客席からは爆発的な歓声が巻き起こった。

その中で、彼の瞳には次なる戦いへの決意が宿っていた。



――クロヴィスが担架で運ばれた後、レヴァンは周りの生徒から質問攻めされないよう学園内を歩き回っていた。


彼は、ようやく噴水がある静かな一画を見つけ、そこで静かに空を見上げた。


「危なかった、精霊の力がなかったら俺は……もっと強くならないと。」


(それにしても、クロヴィスのあの黒炎。属性の昇華なのか、それとも血筋による特異体質なのか......)


考え事をしながら空を見上げていると、背後から柔らかな声が響いた。


「お疲れ様、レヴァン。本当にすごい試合だったわ。」


振り返ると、セリーネが歩み寄ってきた。

観戦の熱気から離れた彼女の表情は穏やかで、どこか安堵の色が伺える。


「セリーネ……」


レヴァンは少し照れくさそうに頬をかきながらも、彼女の言葉に心が和らぐのを感じた。


「ええ、ずっと見ていたわ。クロヴィス相手にここまで戦い抜くなんて、本当に驚いた。だけど……無理はしないでね。あなたが倒れるところなんて、見たくないから。」


セリーネの瞳が一瞬だけ厳しさを帯びたように見えたが、その直後には優しい微笑みが戻っていた。


「無理はしないさ。でも、こうしてランキング戦を勝ち抜いているうちに、俺も少しずつ強くなっているのを感じる。」


レヴァンの言葉には確かな自信と決意が込められていた。

それを聞いたセリーネは小さく頷き、視線をフ噴水に向ける。


「そうね……その成長、私にも伝わってくるわ。」


彼女は微笑みを浮かべたまま、どこか意味深な表情を見せる。


そして、そっと付け加えるように呟いた。


「近いうちに、私とも戦うことになりそうね。」


その一言に、レヴァンの表情が少し引き締まる。


「セリーネ、お前も……挑戦者になるのか?」


彼女は答えずにただ微笑むだけだったが、その眼差しには挑戦への覚悟と、どこか嬉しそうな期待が混じっていた。


「その時は、全力で来い。俺も全力で応える。その前に俺から挑むかもしれない。」


レヴァンの言葉に、セリーネは頷きながら静かにその場を後にした。


彼女の背中を見送るレヴァンは、新たな戦いが目の前に現れる予感に胸を高鳴らせながらも、剣を握り直して次の戦いへの準備を心に決めるのだった。



レヴァン・エスト ー 学園ランキング 32位

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