12-2 挑戦者たちー激闘の連続

――数日後


「それが本気か?」


レヴァンの声が学園内に設けられたランキング戦専用フィールドに響き渡る。


連日の戦いが続き、レヴァンの体には疲労の色が滲んでいた。

それでも彼は剣を握り締め、ランキング戦の挑戦者たちと向き合い続けている。


ここ数日は、自分よりもランキングが下位の挑戦者との試合が多かった。

ランキング316位という自分の位置を守るためとはいえ、その戦いにはどこか物足りなさを感じていた。


しかし、今日の挑戦者は違った。


目の前で戦う相手は、自分よりも高いランキングを持つ術士だった。

鋭い眼差しと、自信に満ちた立ち振る舞い。彼の周囲には緊張感が漂い、その場の空気を支配していた。


(この試合で、今までとは違う何かを掴めるかもしれない…。)


対戦相手はランキング305位、火属性術士のダグラスだった。

ダグラスの手元から溢れ出る炎は、空気をねじ曲げ、フィールド全体に熱波を広げている。


「流石、特異個体を倒した男だな……だが、俺にも勝機はある!」


ダグラスは挑発的な笑みを浮かべると、手のひらを高く掲げた。

その瞬間、彼の周囲に炎の渦が巻き起こり、その中から無数の槍状の炎が生み出される。


「炎槍の嵐渦(えんそうのらんか)!」


彼の叫びと共に、炎の槍が次々と飛び出し、レヴァンに向かって突き刺さるように襲いかかる。


その猛攻に観客席からは驚嘆の声と歓声が上がる。


しかし、レヴァンは冷静だった。


「風よ、力を貸してくれ。」


彼は風の力を全身に感じながら、周囲に流れる風を指先で操作するように扱う。


目には見えないが確かな風の壁が彼を包み、迫りくる炎の槍を逸らしていく。

熱波に揺れる空間で、槍の一つが彼の頬を掠めるが、彼は一歩も引かない。


「ほう......だが甘い!」


ダグラスが笑みを浮かべると同時に、さらに大きな炎槍を放つ。


レヴァンはそれを見極め、剣を構えた。彼の剣には風が纏わりつき、鋭い刃を形作っている。


「風刃一閃(ふうじんいっせん)!」


鋭い音を立てながら、レヴァンの剣から放たれた風の刃が炎槍を切り裂き、炎の渦を真っ二つに引き裂いた。風と炎の衝突が巻き起こす轟音と閃光に、観戦者たちが目を見開く。


ダグラスは苦々しい表情を浮かべながらも、口元に笑みを残していた。


「ここまで俺の炎を正面から受けきるとはな……面白い!」


彼は再び手を掲げ、今度は空中に巨大な炎の玉を形成し始めた。

それは通常の火球ではなく、重厚な熱と圧力を伴う爆発力を秘めたものだった。


空気が振動し、フィールド全体に火花が散り始める。


「受けてみろ、これが俺の本気だ!」


ダグラスは火球を放つと同時に、その周囲から無数の小さな炎の刃を放出した。

一瞬たりとも気を抜けない多重攻撃に、観客席は歓声とどよめきに包まれる。


レヴァンは炎の刃の軌道を読み切りながら、風の力をさらに引き出した。


剣を振るたびに風が刃となり、周囲に小さな旋風を生み出していく。

彼は攻撃をいなしながらダグラスに向かって間合いを詰めた。


「甘いぞ!」


ダグラスの叫びと共に、火球が地面に着弾し、爆発がフィールド全体を揺るがす。

その瞬間、レヴァンは足元に風を集中させ、一気に上空へと跳躍した。


「これで終わりだ!」


レヴァンは空中で剣を構え、風を纏わせた一撃を放つ。

鋭い風の刃が炎の余波を切り裂き、ダグラスの足元を掬(すく)うように通り過ぎた。


爆発音が轟き、フィールドは煙に包まれた。

視界がクリアになった時、ダグラスは膝をつき、手で支えた地面が焦げ付いていた。


「――勝者、レヴァン・エスト!!」

審判の声がフィールド上に響き渡る。


「やられた……お前、本当に強いな。」


ダグラスは降参の合図を送り、笑みを浮かべながらフィールドを後にする。


観客席からはドッと拍手と歓声が沸き起こる。

レヴァンは、この戦いとこれまでの戦いで胸に新たな自信を宿していた。



レヴァン・エスト ー 学園ランキング 305位



――レヴァンは青空を見上げた。


どこまでも続く青空が広がり、澄み切った空気が肌を撫でていく。

雲ひとつない空は深い青を湛え、まるで広大な水面を映したかのように穏やかで美しい。


フィールドを後にした彼は、剣を鞘に納めながら静かに呟いた。

「次もある……負けてられない。」


次なる挑戦者の名前がランキング専用受付にある巨大石板に追加されるのを、彼はすでに知っている。尽きることのない彼の戦いは、これからも続いていく。


その背中を見つめる観客たちは、さらなる激闘を予感していた。


試合を重ねるたび、レヴァンの技術は目に見えて進化していた。

特に風の制御においては、彼独自の戦術が次々と編み出されていった。


たとえば、突風を使って相手の視界を遮る技。

風の動きを巧みに操ることで、一瞬の隙を作り出し、その間に間合いを詰める。


さらに、防御の面でも、風の壁を展開して敵の攻撃を弾き返すだけでなく、その反動を利用して自身を加速させる戦術を完成させた。


「戦いの中でしか得られないものがある…イゼリオス、俺にその力を貸してくれ。」


風がレヴァンの周囲を柔らかく包み込むたびに、彼の動きにはさらなる鋭さと精度が加わっていった。


「次も勝てる。」


その言葉には確かな自信が宿っていた。



――戦闘が繰り広げられるフィールドは、壮大な演出の舞台でもあった。


火属性の挑戦者が放つ爆炎は、轟音と共に炸裂し、観客たちの視界を一瞬で赤く染める。雷属性の閃光は、一瞬だけ空間を白く染め、続く轟音が耳をつんざいた。水属性の術士が放つ波紋は、床を濡らしながらフィールド全体を覆い、冷たい空気を漂わせる。


それぞれの属性が織りなす光と音の競演は、まるで別世界の戦場を覗き込んでいるかのようだった。


観戦者たちは息を呑みながら試合に見入る。

中には涙を浮かべる者もおり、目の前で繰り広げられる壮絶な戦闘に心を奪われていた。



レヴァンのランキングより上の挑戦者は、ダグラスだけにとどまらなかった。

次に現れたのは、水属性の術士、セリア。学園ランキングは278位。


彼女は水の星紋術を巧みに操り、まるで川が障害物を柔軟に避けるように、しなやかな動きで攻撃を受け流していく戦術を得意としていた。


レヴァンが剣を構えるたびに、セリアはその動きを読み取り、軽やかに身を翻して攻撃をかわす。


その足取りは優雅でありながら隙がなく、観戦者たちからもどよめきが上がる。


「あなた、動きが軽いわね。力でゴリ押すタイプだと思っていたけど…違うみたいね。でも、これならどう?」


セリアは、レヴァンを水の刃でけん制しながら、静かに集中し始めた。


彼女の星紋が足元に浮かび上がる。

青い光が彼女の周囲を包み込み、水の力が具現化していく。


そして、彼女の手が高く掲げられると、空中に無数の水の刃が浮かび上がった。


「水刃連瀑(すいじんれんばく)!」


鋭い音を立て、浮遊する水の刃が一斉にレヴァンへ向かって放たれる。


その軌道は読みにくく、刃は蛇のようにくねりながら、まるで生き物のように標的を追尾していく。


「くっ!」


レヴァンは風を纏った剣で刃を迎え撃つ。

しかし、剣に水の刃がぶつかる度に、水の刃が爆発してレヴァンに衝撃ダメージを与える。


水と風がぶつかり合い、爆発するたびに、澄んだ金属音のような響きがフィールドに広がっていた。


レヴァンは、衝撃に耐えながら爆発を伴う水の刃を弾き返していた。

しかし、衝撃ダメージが蓄積され、剣を握る手の感覚が麻痺し始めていた。


それだけではない。軽い眩暈と息苦しさも感じ始めていた。


「この衝撃、厄介だ。このままでは......」


眩暈(めまい)が酷くなりながらも彼は、セリアの次の動きを観察していた。

その動きはしなやかで読み取りにくい。次第に彼の額には汗が浮かび始める。


セリアは攻撃の手を緩めることなく、水をさらに集め始めた。

その手のひらから生み出された水流が空中で渦を巻き、巨大な槍のような形を取り始める。


「これで終わりよ。激流槍撃(げきりゅうそうげき)!」


セリアが叫ぶと同時に、巨大な波と共に水の槍が放たれる。


「ズドドド......」


その勢いは凄まじく、フィールドの空気を一瞬で震わせた。

観客たちは思わず息を飲み、その迫力に目を見開く。


しかし、レヴァンは動じなかった。彼の集中力は研ぎ澄まされ、風の力をさらに引き出すと同時に、足元から星紋が青白い光の陣となり広がっていた。


周囲の空気が震え、彼の全身を包み込むように光が渦を巻き始める。


(長引けばこちらが不利。風を使って動きを止める…波と槍に飲み込まれる前に術者を倒す。)


レヴァンが集中すると、フィールドに突風が巻き起こり、風の刃がセリアの足元を掠めた。


一瞬の隙を生じさせたその風の刃による一撃が、均衡を崩す。

その瞬間、レヴァンは一気に間合いを詰め、鋭い一撃を放った。


「蒼閃舞(そうせんぶ)!」


「っ...水流壁(すいりゅうへき)!」


風の刃を纏った青白く輝く剣が複雑な軌道を描き、セリアの星紋術による防御を破壊した。


――試合は決着を迎えた。

衝撃と共にセリアが膝をつき、静寂が訪れる。


同時に、巨大な波と水の槍は消失していた。


観戦者たちは一瞬言葉を失い、その後大きな歓声がフィールド全体に響き渡った。


「やられたわ…ほんと強いわね、あなた。」


セリアは肩を落としながらも微笑む。

その笑顔には悔しさだけでなく、清々しさも感じられた。


彼女はゆっくりと立ち上がり、レヴァンに手を差し出した。


「また挑戦させてもらうわ。その時はもっと強くなっているから覚悟してね。」


レヴァンは彼女の手を握り返し、静かに頷いた。


「いつでも受けて立つ。」


こうして、一つの戦いが幕を閉じた。

しかし、その背後にはさらなる戦いが待ち受けている。



レヴァン・エスト ー 学園ランキング 278位



朝日が学園の壮大な広場を穏やかに照らし、前日の激戦の余韻を感じさせる静けさが漂っていた。


レヴァンは、戦いの疲労を引きずりながらも、新たな挑戦に向けて準備を整えていた。


昨日の戦いを終えて得たもの、それは単なる勝利だけではなく、自らの成長を実感させる貴重な時間だった。


「次も負けるわけにはいかないな……。」


呟く声に決意が込められていた。


この日、最初のランキング戦のフィールドに登場したのは、雷属性のスピード型術士ガイルだった。


彼の学園ランキングは212位。身軽な鎧を纏い、両手に握られた短剣は雷光をまとっている。


彼が足を一歩踏み出した瞬間、フィールド全体が彼の速度と雷光に包まれたように感じられた。


「俺の速さについてこれるかな?」


ガイルの叫びが響くや否や、その姿は電光石火のごとく消え去り、次の瞬間にはレヴァンの背後に現れていた。


短剣が放つ雷の軌跡が空間に残り、観客たちから驚きの声が上がる。


「さぁ、どうする!」


ガイルはさらに速度を上げ、フィールドを縦横無尽に駆け回る。

雷光の軌跡が彼の移動ルートを示し、短剣の鋭い斬撃がレヴァンを狙い続ける。


雷が発する高周波の音が周囲に響き、緊張感が一層高まった。


「すごい速さだ……!」


観客たちの目にも、ガイルの動きはほとんど見えない。

まるで雷そのものが意志を持って動いているかのようだった。


レヴァンもそのスピードに圧倒されながら、一瞬の隙を見つけ出そうと冷静に目を凝らす。


彼は剣を構えたまま静止し、風の流れを感じ取ることに集中した。

風の力が感覚を鋭敏にし、わずかな空気の乱れを通じてガイルの動きを追跡する。


「速いだけじゃ、俺は倒せない。」


レヴァンは低く呟き、風を纏った剣を軽く動かす。

その瞬間、彼の周囲に風が渦を巻き、見えない壁のように雷の斬撃を弾き返した。


ガイルの攻撃が再び襲いかかる。


彼の短剣が雷光を帯びながら鋭い突きを繰り出すが、レヴァンは風の加護による直感でそれを紙一重で避ける。


そして、雷光が目を眩ませる一瞬の間に間合いを詰めた。


「そこだ!」


レヴァンは素早く剣を振り抜き、ガイルの短剣と激しくぶつけ合う。


金属音が甲高く響き、火花が散る。何度も繰り返される攻防の中で、レヴァンは確実にガイルの動きを読み切っていく。


「くっ……なんでだ!」


ガイルの声が焦りを帯びる。

彼のスピードが次第に削がれていくのを感じているのだ。


レヴァンの剣が風を纏い、次第に強い斬撃を繰り出す。

最終的に、彼の一撃がガイルの短剣を弾き飛ばし、地面に突き刺さった。


試合が決着した瞬間、フィールドには静寂が訪れた。

雷光が消え去り、ガイルは息を切らしながら膝をついた。


「風の力……なるほど、精霊と契約しているという噂は本当のようだな。」


彼は息を整え、立ち上がると悔しさを滲ませつつも、その表情には清々しさが混じっている。


「やられたよ。あの速さでかわし続けるなんて、どうなってるんだ? お前、本当に人間か?」


冗談めかして笑うガイルの声に、観客たちの緊張した空気が少しだけ和らぐ。


レヴァンは剣を下ろし、疲れを隠さずに微笑みを返した。


「俺もまだ未熟だよ。速さを力に変える戦い方、勉強になった。」


その言葉にガイルは目を見開き、驚いたように一瞬黙った。

だがすぐに笑みを浮かべ、軽く拳を差し出す。


「次はもっと鍛えて挑む。その時は負けないからな!」


レヴァンはその拳を軽く合わせた後、短い握手を交わした。

観客席からは大きな拍手が湧き起こり、フィールドを包み込む。


試合の終わりを告げる審判の声が響き渡り、観客席からさらに拍手と歓声が沸き起こる。


その中で、レヴァンは軽く息を整え、疲労を感じさせないように背筋を伸ばしながらフィールドの端へ向かった。



次の試合までの短い休息が許されているものの、彼の心には次々と現れる挑戦者たちの顔と、彼らとの戦いの記憶が鮮明に焼き付いていた。


「疲れてるんじゃない?」


柔らかい声が後ろからかかると、レヴァンは振り返った。


そこに立っていたのはセリーネだった。


動きやすさを重視したシンプルなジャケットに、丈の短いレザー製のブーツを合わせている。腰にはベルトが巻かれ、小さなポーチがいくつか取り付けられており、戦闘の際に必要な道具を収納できるようになっている。


ジャケットの下には、耐久性のある軽装のチュニックとスリムなパンツを着用し、全体的に実用性を重視したスタイルだ。肩には薄手のマントがかかり、カジュアルながらも洗練された印象を与えていた。


「いや、大丈夫だ。」


レヴァンは軽く微笑み、額に滲んだ汗を手の甲で拭った。

セリーネは少し呆れたように微笑み返すと、彼の隣に腰を下ろした。


「とはいえ、あれだけの試合を連続でこなしてるんだから、少しは休んだ方がいいわよ。」


観客席からは次々と挑戦者の名前が挙がり、彼らがレヴァンへの挑戦を計画していることを話題にしていた。その中には、学園ランキング上位に名を連ねる強者たちの名前もちらほらと聞こえてくる。


「上位ランカーまで巻き込んでるなんて、あなたの名声もすっかり広がってるみたいね。」


セリーネは笑みを浮かべながらそう言ったが、その目には心配の色が見え隠れしていた。


「名声なんて気にしてないさ。ただ、挑戦してくる以上は全力で応じるだけだ。それにしても、ランキング上位者同士でのランキング戦は活発なようだな。」


レヴァンは真剣な目で前を見据えた。

その姿を見て、セリーネは少し驚いたように瞳を細める。


「そうね。ランキング20位内に入れば卒業できるでしょ?在籍期間に応じて学費を支払うわけだから、早々に目的を果たした人は学費を抑えるために上を目指す人が多いわ。」


「そうか、俺も5年いるつもりはないからな。活発な理由が分かった。」


レヴァンは、上位者同士でのランキング戦が活発なことに違和感を覚えていたが、セリーネの説明で納得していた。


(みんな、目的があるんだよな。俺も......)


「そういえば、クロヴィスの名前もリストにあったわよ。学園ランキング32位の彼が次に挑むなんて、なかなかの展開じゃない?」


セリーネが微笑みながらレヴァンに声をかけると、彼は一瞬だけ表情を険しくした。


クロヴィス――学園内でも屈指の実力者であり、その実績と強さは多くの生徒から尊敬を集める存在だった。


「あぁ……次の相手はクロヴィスだったな。」


レヴァンは小さく呟くと、剣の柄に手を添えた。


彼の内心では、これまでの挑戦者たちとは一線を画す存在として、クロヴィスへの警戒心がじわじわと膨れ上がっていた。


「心配してるわけじゃないけど……気をつけてね。彼の戦い方は、攻撃力も防御力も一級品よ。」


セリーネの言葉には温かさが滲んでいたが、それは同時に忠告でもあった。


「ありがとう。気を抜かずに挑むさ。」


レヴァンは軽く頷き、フィールドを見上げた。

その目には決意の光が宿っている。


(学園ランキング32位のクロヴィスか......一筋縄ではいかないだろうな。)


彼は、次の戦いが激戦になることを予感していた――。



レヴァン・エスト ー 学園ランキング 212位

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