第19話
リコは倉沢に経緯を聞いた。
「ハルはもう会うつもりはなさそうなんですね」
「はい…」
俯きあからさまに落ち込む倉沢にリコは微笑ましくなった。
「さっきも言った通り、ハルは私の大事な友達です」
「はい」
「疑ってるわけじゃないですけど、行きつけを教えるのは危険」
倉沢は再び視線を落とした。
「ハルは患者ですよ。先生は主治医。何かあれば問題になりますよね」
「大丈夫です」
「それに、ハルのことを何も知らない」
「大丈夫です」
「何がですか」
さっきから妙に自信ありげに即答する倉沢にリコは眉を顰めた。
倉沢はゆっくりと言葉にした。
「尾崎さんに会うと気分が良くなります」
「うん、わかる」
「超勤の後も、人間ドックの内視鏡検査ばっかりの日も、回診も、データやカルテの事務仕事も」
「…あなたの仕事ほとんどでは?なんで医者になったの?」
「自分にとってそういう人を傷付けることはありえないからです」
リコは倉沢の真っ直ぐな目を見て同感するように小さく頷いた。
「それ、ハルに言ったんですか?」
「言ってません」
「言って下さい」
「じゃあ会わせて下さい」
食い下がる倉沢にリコはため息をついた。
「じゃあハルが先生と会ってどんな気分になるか考えたことありますか?」
言葉に詰まる倉沢。
リコはカウンターを拭きながら続けた。
「先生は気分が良くなるかもしれないけど、ハルはそういう仕事をしてます。
多くの医師の機嫌を察して、愚痴を聞き、励まし、時には不機嫌のサンドバックになる。
そして医師以外のスタッフ、患者、外部の人間から医師に対する苦情の窓口にもなる。
スケジュール管理や雑用、書類仕事だけじゃないんです。
先回りして医師に気分よく仕事してもらうのが1番の仕事です。
あなたも“医師”だからだとは思いませんか?」
「そうかもしれない…です。でも」
リコはカウンターを拭く手を止めた。
「分かりました。ハルに会うために一介のクラークにまで縋るなんて」
「最後の砦なんで」
「ハルは頑固ですよ」
「はい」
「なるほどね〜。ハルが受診に来てるか、どこにいるか…何かと思いました」
「すみません」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます