第17話

それから1週間

ハルは予約通り、鰍沢の診察に来ていた。


「鰍沢先生〜、お久しぶりです」


「調子は良さそうですね」


「はい」


「腸閉塞は繰り返すから気をつけて。以上です」


「ありがとうございました」


ハルは丁寧にお礼を言い、診察室を出た。

リコに会って行こうと内科ブロックの受付へ向かった。


「リコちゃんいるかなー…え?」


内科ブロックの受付を覗くと、リコはいた。

そしてカウンター越しに身を乗り出し、リコとパソコンの画面を見ている、濃いブルーのスクラブに白衣を羽織った後ろ姿。

すっかり忘れていたハルは慌てて引き返そうとした。

ものの、ちょうどリコと目が合ってしまった。

リコも思わず「あっ」と声が出る。

その反応で、やはり自分のことだと察したハル。

そしてリコの目線を追って振り返った倉沢。


「いました、ありがとう」


倉沢はリコにそう言って、ハルに駆け寄った。

「何事?」という顔をしているリコに目くばせをして、ハルは倉沢と向き合った。

相変わらず両ポケットに両手を入れて、倉沢は微笑んだ。


「ちゃんと来てくれてよかったです」


「来ますよ〜。でも今日で終診です」


「そうでしょうね」


未だにリコの視線を感じながら、ハルは倉沢にもう少し近付くよう小さく手招きした。

倉沢が一歩ハルに近付くと、ハルは小声で言う。


「ちょっと私たち怪しすぎません?変な噂流れますよ」


「大丈夫です、ちゃんと僕の患者なんで」


「入院中のね」


「初めて受け持った患者を気にかけて何が悪いんですか」


「だって、そんな、わざわざ外来まで来るなんて、どんな目で見られてると思ってるんですか」


ハルはリコからの視線を外れるため、倉沢の白衣の袖を引っ張って外科ブロックに続く廊下に移動した。

他の人の邪魔にならないよう、廊下の隅に移動すると倉沢は答えた。


「大丈夫です、僕は感じ悪いから嫌われてるんで」


「いや、そういう…」


ハルはそこまで言ってハッとした。


「私が倉沢先生は感じ悪いって言ったから怒ってるんですか?!」


「怒ってないです。怒ってると思ってるんですか?なんで?」


「からかうから」


倉沢は考えるように視線を泳がせたあと、首を傾げた。


「なんのこと?」


自分で言うのは何だか恥ずかしくてハルは俯いた。

その時、未だに倉沢の白衣の袖を掴んでいることに気付いて慌てて手を離す。

ハルの顔を覗き込むように倉沢は少し身を屈めた。

ハルは再び手を伸ばし、少しだけ倉沢の白衣の袖に触れて呟いた。


「今日は青なんだ。グリーンの方が好き」


倉沢はその手を一瞬見て、またハルの顔を見る。


「尾崎さん」


ハルは顔を上げた。


「もう帰るね、倉沢先生」


今度は倉沢が少し俯いたあと、ため息混じりに頷いた。


「…はい」


ハルはいつものようにニコッと笑ってみせる。

倉沢はハルが歩いて行くのを見送った。

途中内科ブロック受付の前で「電話する!」と声をかけているのを見た。

ハルに手を振っているのはさっきのクラークだ。


倉沢は首を傾げ、方向転換して外科ブロックを抜け、内視鏡検査室に戻った。

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