第12話

翌日の9:45。

ハルは着替えを済ませ、退院手続きを終えていた。



「尾崎ー」


そこへ藤森がご機嫌そうに現れる。


「いよいよ“出所”だな。外来は4月21日金曜日の10時だぞ」


「さっき聞いた」


「バックれるなよ。あとまだ消化の良い食事にしとけ」


「分かってるって。鰍沢先生は?」


「外来がパンパンです」


「倉沢先生は?」


「人間ドックの内視鏡検査中」


ハルはつまらなそうに唇を尖らせた。


「俺じゃ不満か?!」


「いいえ」


「酒はまだやめとけよ」


「はいはい、またどこかで」


ハルは笑う。


「お大事に」


藤森の言葉に軽く頷き、ハルは病棟の出口へ向かって歩き出した。

後ろ手で「じゃあね」と手を振る。


藤森はその背中を見送りながら看護師に呟いた。


「ありゃ絶対すぐ飲むな」



ハルが退院した日の午後。

倉沢はスタッフステーションで藤森を見つけた。


「藤森先生」


「おう、お疲れー」


「あの」


言いかけて、倉沢は言葉を飲み込む。


「ん?どうした?」


藤森は不思議そうに顔を向けた。


「いえ」


視線を落とし、倉沢はカルテ画面に戻り、近くの看護師に声をかける。


「110号室の土橋さん、点滴痛むらしいんで位置変えてもらっていいですか」


その様子を見て、藤森は何かを察したように「ほーう」と声を漏らした。


倉沢はつまらなそうに頰杖をつき、パソコンを見ている。



「そういえば、“出所”した尾崎だけど、今週末には飲みに行くだろうな」


突拍子もなく始まった話に、倉沢は藤森を訝しげに見る。


「鰍沢先生と倉沢先生はー?って文句言うくらい元気に帰ったよ」


「…そうですか」


「週末、パトロールに繰り出すか」


「…はい?」

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