第11話

ベンチに座り、イヤホンで音楽を聴きながら夕暮れを眺めていたハル。


ふと人の気配を感じ、窓の外から視線を外す。


濃いグリーンのスクラブに白衣を羽織り、首に聴診器をかけ、両ポケットに手を入れた倉沢が立っていた。



「倉沢先生」


ハルはイヤホンを外しながら、小さく呟くように言った。


「探しました」


倉沢はそう言って、自然に隣へ座る。


「なに聴いてるんですか?」


「え?葛飾ラプソディーです」


イヤホンを掲げて見せるハルに、倉沢は少し笑った。


「こち亀ですか」


「日曜日の夕方って感じでしょ。え、分かります?年代的には伝わりますよね?」


「分かります」


「よかった」


ハルは笑って、再び窓の外へ視線を戻した。



「明日退院ですね。よかったです」


「はい、鰍沢先生がやっと来てくれました」


「尾崎さんは医者の扱いが上手い」


「なんでですか?」


倉沢の言葉に、ハルは思わず笑う。


「なんとなく」


倉沢は首を傾げる。



ハルは少し考えるように天を仰ぎ、ぽつりと続けた。


「鰍沢先生は合理的で率直。無愛想だけど、信頼できる」


倉沢が少しだけ目を上げる。


「藤森は診断に迷いがない、自信家。とても社交的で冒険好き」


ハルは倉沢の方を見た。


「倉沢先生は感じ悪いけど誠実で行動で示すタイプ。あと面倒見がいい」


そして少しだけ笑い、視線を逸らす。


倉沢は何も言わず、ハルを見ていた。



「仕事で身につけたスキルです。医師のタイプ別に接し方を変えてます」


「僕は感じ悪いですか?」


「悪いですよ」


倉沢は少し考えるように「うーん」と首を傾げる。


ハルは冗談めかして笑った。


「でも顔はすごくタイプです」


倉沢は表情を変えないまま、何も言わなかった。


ハルは気にする様子もなく続ける。


「入院主治医も外来主治医もいい先生たちでよかった」

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