第9話
4日目の午後。
リクライニングのベッドを起こし、ハルはNetflixでドラマを流していた。
画面に映る食事シーンに、思わず小さくため息が漏れる。
「尾崎さん」
名前を呼ばれたのと同時に、カーテンが開いた。
「あー、倉沢せんせー」
ハルは少し不機嫌そうに顔を上げる。
その表情に倉沢はわずかに首を傾げた。
「“また明日”って言ったのに来ないかと思った」
不満をそのまま口にするハルに、倉沢はいつもの調子で返す。
「午前中来ましたよ。寝てたんで」
「マジ?また出直させちゃったの?ごめんなさい」
「回復しようとしてる証拠です。痛みはどうですか」
「ご飯はいつから食べられますか」
「お腹触りますね」
倉沢はハルのみぞおちあたりを軽く触診する。
ハルは返事を待つようにじっと見つめていた。
「お腹空きました」
「夕食から食べられるように確認しておきます」
「ほんと?!」
ハルの表情が一気に明るくなる。
「三分粥からのスタートです」
「楽しみ」
倉沢が病室を出たあとも、ハルは嬉しさを隠しきれなかった。
⸻
夕方17時頃。
ハルは廊下に献立表が貼られているのを思い出し、病室を出る。
今日の夕食の欄には、好物の鯖の味噌煮が載っていた。
(これ食べられるのかも)
自然と気分が浮き立ち、思わず声が漏れる。
「やった!」
そこへちょうど倉沢が通りかかり、足を止めた。
白衣のポケットに手を入れたまま、ハルの横に並ぶ。
ハルが見ているものが献立表だと分かると、短く言う。
「夕食、オーダーしておいたんで」
ハルはぱっと顔を上げる。
倉沢はそれ以上何も言わず、そのまま歩いて行った。
ハルはその背中を見送ったあと、小さくガッツポーズをした。
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