生まれ変わる方法(2)
葉子が社長室にいるあいだ、富田も憂鬱だった。
よりによって、事務所の中でも一番苦手なタイプの子と組むことになるなんて。
悪い子ではない、いや、むしろすごくいい子だと感じるが、それだからこそ、担当はしたくなかった。
22年前、マネージャーとして駆け出しだった頃の失敗が、葉子を見ていると、よみがえる。
繊細な優等生で、芸能界をキラキラした夢の世界だと信じていて、そのうえ、アーティスティックな自己表現までしたいだなんて、22年前のあの子と同じだ。
仮にそこそこ売れたとしても、やがては幻滅して、傷つくのがオチなのに。
自分が名マネージャーとまで呼んでもらえるようになったのは、22年前の失敗を反面教師にして、本当の意味で芸能界向きの子を見つけては育ててきたからなのに。
22年前のあの子によく似た葉子では、また失敗に終わるだろうし、それは自分にはもちろん、葉子にとっても不幸でしかない。
厄介なのは、そういう結果が見えるせいか、葉子に対し、ついついきつく当たってしまうことだ。
数日前にも、
「はっきり言って、お前は芸能界向きじゃないと思うよ」
と、言ってしまった。
理想と現実のギャップを教えるつもりでもあったが、葉子は今にも泣きそうな顔で聞いていたっけ。
「富田さん。
芸名、決まりました。
それと、今度の新ユニットについていろいろ話し合うように、って」
おどおどした口調も、ぎこちない笑顔も、やはり芸能界向きとは思えない。
さて、この子をどうしてやればいいのか。
憂鬱さを振り払うように、わざとそっけなく、富田は資料を手渡した。
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