生活保護JK(仮題)

SASAKI J 優

第1話

エピローグ


部屋の隅に置かれたこたつの上に、通帳が開かれている。蛍光灯の冷たい光が、アイの顔を不機嫌に照らしていた。

「これで満足しろって?」

独り言が静かな部屋に響く。通帳の数字は、アイの気分をさらに悪くさせるには十分だった。


クリスマスが近い。街中は華やかな飾りと、カップルたちの浮かれた顔で溢れているだろう。アイには、それが遠い別世界の出来事に思えた。

目の前の現実、つまり残高は、彼女の中に眠る何かを呼び起こした。それは怒りであり、同時に虚無だった。


机の上には、以前付き合っていた彼氏との写真があった。アイはそれを手に取ると、しばらく見つめ、ため息をついた。彼の笑顔は作り物のように思えた。思い返せば、あの笑顔の裏には、体目当ての欲望しかなかった。自分を何だと思っていたのか、と彼女は苦々しく思う。

「馬鹿だったな、私も」

写真をぐしゃりと丸めて、ゴミ箱に放り込む。その音が妙に大きく聞こえた。


窓の外を見ると、空は曇りがちだったが、遠くの空の端に、うっすらとした夕焼けの赤が残っている。それがどこか希望のようにも見えた。アイは一瞬、呆然とその景色を見つめる。

「……まあ、これからだよね」

彼女は小さく呟き、通帳を閉じた。怒りは完全には消えない。だが、それが彼女を前に進ませるエネルギーになり得ると、どこかで確信していた。


コタツの上に置かれたノートを開き、彼女はペンを握る。新しい物語が始まるのは、いつもこんな些細な瞬間からだ。


部屋の外から、微かにクリスマスソングが流れてくる。世界は相変わらず、どこか自分には冷たくて遠い。それでも、アイはペンを走らせる。自分のために、そして、なによりも、自分だけの未来のために。

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