案内人
電車から降りる。
辺りを見回してみてもまったく人が見当たらない。無人の改札機があるだけだ。
「さて、どうすれば良いのやら」
あの推薦書があれば受験はいらないようで、同封されていた必要書類を記入して郵送すると後日、合格通知と入学案内が届いた。
なので、受験を受けにここに来たこともない。初めての場所だ。
案内書通りに電車を乗り継いできたのだが、一体ここは何処なのだろうか。案内人に従って欲しいとは書かれていたが。
正直、こんな怪しい推薦書。担任に渡されたからと言って信じるのもどうかと思うのだが、実際に俺は奇跡を体験している。タイムスリップと脳内アニマが何よりの証拠だ。
だからこそ、魔法学術院なんていかにもな学校名を疑うことは無かった。
しばらく辺りを見回していると、改札の先に手を振っている人がいることに気づいた。
「きみはー、新入生の荒谷くんですかー!」
人がいないからか周りを気にせず、大声で俺を呼ぶ声がした。おそらく、彼女が案内人なのだろう。
改札の前で立ち止まる。ここでいつものICカードは使えるのか?
俺の疑問に気づいたのか、案内人は教えてくれた。
「改札に手をかざしてくださいー。そうすれば個人の魔力を識別して出られるようになりますよ!」
なんとも力が抜けるような声。俺より小さいことも相まって、ここに来て緊張していた体の強ばりが解れた気がした。
「初めまして、荒谷志木くん。魔法学術院高等学校で教師をしている佐野乃々華です。今日は一日、私が担当するのでよろしくね!」
そんな佐野先生に高校生活、幸先は良さそうだ……なんて思った。佐野先生可愛いし、ね。
『おっと、シキくーん。私のことも忘れないでくれよー』
……アニマのことを考えると差し引きゼロな気もしてきたが。
気を取り直して、先生の案内に従って駅の構内を歩いて行く。
「荒谷くんはアトランティス大陸のこと、どれくらい知っていますかー?」
先生の思いもしなかった発言に、言葉が詰まった。
「アトランティス、大陸?」
もしかして、ここ。日本列島ですらないのか?
「なるほど、そこからですか。ちょっと説明が長くなるのでまとめるとー、ここは太平洋の真ん中辺りに位置するアトランティス大陸と呼ばれている場所なんです」
色々と気になることがあるが、アトランティス大陸の成り立ちなどについては長くなると佐野先生。
「ちなみに、あの電車は途中で転移門を通過してきたのですが。荒谷くんは気がつきましたか?」
それはびっくり。確かに電車で一時間も経たないうちに日本から出れるわけが無い。
しかし、転移か。
またひとつ気になることが増えてしまった。この調子では今日だけでも調べなくちゃならない事が山のように溜まっていきそうだ。
「佐野先生、本屋にも案内して貰えませんか? 思っていたよりも常識が異なるので、勉強できないかと」
「じゃあ、本屋さんも目的地のひとつに入れておきますねー」
『楽しみだねえ、シキくん。うーん、やっぱり杖の専門店とかもあるのかな? ね、どう思うー? 面白そうなお菓子があったら買っておいてよ!』
こいつ、魔法使いの映画の影響受けすぎじゃないか? 俺は生き残った男の子でもないし、額に傷跡もないぞ。
幸い、アニマは現実に何の干渉もすることが出来ない。生身の身体があったのなら迷子になることは必至である。
俺たちは駅近くの駐車場から車に乗り換え、移動を続けるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます