第7話報酬清算


煉は眠たげに目を細めていた。千回目の挑戦でこの「孫孝行芝居」に付き合わされるのが心底うんざりしていた。開発者にスキップ機能を懇願したい心境だ。


寝室から現れた二人の老婆は瓜二つ。赤ずきんが混乱して煉の裾をつかむ。


「どっちが本物のお婆ちゃん?」


老婆たちが声を揃える。「赤が好き」「手作りのリンゴパイ」「公園で迷子になったこと」


赤ずきんの頬が膨らむ。「わかんない! お兄ちゃん助けて!」


煉は少女の後頭部に手を当て、慈愛に満ちた笑みを浮かべた。


「大丈夫」


パン!


手の平が赤ずきんの頭蓋骨を叩く鈍い音が響く。少女の首が不自然にねじれ、編み込みの髪が蜘蛛の脚のように広がった。


:子供に暴力!?


:これに何の意味が?


:わかった!本物の婆ちゃんなら孫が心配するはず!


:なるほど!


生死に関わらず、血縁の絆は変わらない。煉はその確信を持っていたから、決して間違えなかった。


右側の老婆の足元が微かに震えた。煉は瞬時に左の老婆に回転跳躍、鉄槌のような打撃を叩き込む!


「狼め」


偽物の悲鳴が部屋を揺らす。崩れ落ちた肉体から現れたのは、赤ずきんの父親の亡骸だった。


「きゃあっ!」


少女が煉の背中に飛びつく。震える指先が、父親への恐怖より死体そのものへの拒絶を示していた。


煉の視線が残った老婆を捉える。マフラーを引き千切る動作が、血糊のついた包帯を曝け出した。


「貴女もとっくに鬼籍の方だ」


老婆の頬が蜘蛛の巣状にひび割れる。灰青色の肌から迸る怨念が、廊下の壁紙を腐食させ始めた。


「異邦人よ! 消えろ!」


甲高い叫びが建物を貫く。一階で待機する正志たちが思わず耳を塞いだ。


「どうした?」橋本が画面に食い入るように見つめた。


田村と正志は首を振った。


「ボスの台詞じゃない?」山口が推測した。



煉も違和感を覚えた。今までの千回で、こんな台詞聞いたことない。


アップデートか?


隙を見せた刹那、老婆の腕が蔦となって襲いかかる!


空中で体勢を変え、煉がハンマーを逆手に構える。鈍器が蔦を叩き切る音と共に、老婆の頭蓋が砕け散った。


カメラが恐怖を捉える。少女の顔が四分され、血の滴る花弁のように開いていく。


:うわっ!目が!目が!


:SAN値下がる!


:まさかのNPCボス化!


ドアが吹き飛ぶ轟音。血まみれの田中が喘ぎながら現れる。


「はあ……はあ……こいつら……!」


赤ずきんは新たな獲物を見つけると、煉を警戒して視線をそらし、野獣のように孟闖に襲いかかった!


ドンッ!


鈍い音と共に、赤ずきんの身体が力なく崩れ落ちた。


肩で息をする孟闖と、煉が視線を交わす。


煉は笑い声を漏らし、ピンクのきしむハンマーを肩に担いだ。


「やるじゃねえか、あれは手強いぞ」


煉に助けられた田中は、照れくさそうに顔をそむけた。


「お互い様だ」


周囲の景色が仮想ブロックに分解され始めた。ようやくダンジョンから脱出できる。


生き残ったプレイヤーだけが帰還を許される。


SSS級ダンジョンの幕が下り、弾幕も安堵に包まれた。


:終わったわ!


:あとは報酬清算よね?


暗闇に包まれるダンジョン。プレイヤーたちを柔らかい白光が浮かび上がらせる。


「煉さん!」「無事で!」 山口と正志が駆け寄る。橋本と田村も安堵の表情を浮かべた。


千咲煉がぽんと帽子を叩き、埃を払う。「毫发無傷さ」


報酬清算が始まり、各人の前に箱が出現。田村と煉以外の箱は差別がない。


「これが報酬?」山口が掌サイズの箱をくるくる回す。 田村が眼鏡を上げる:「特殊報酬なら他人に見せない方が──」


ビリビリッ!


煉が早速包装紙を破り始めた。


「でかすぎんだろこれ……」 千咲煉が箱を傾けて覗き込む。過去千回のクリアで報酬ゼロのトラウマが蘇る。


「危ないものかも」山口が後ずさりする。 煉は充填ハンマーで箱をトントン叩く。


煉は満足そうにハンマーを振り回す。「次のダンジョンでも使えるならサイコー」


「プレイヤーリストバンド買えばデータ保存できますよ」田村が教える。 「へー、便利時代」煉は箱に手を突っ込み続けた。


「これ何だ?」


千咲煉が銀色のカードを二枚摘み上げる。無限大記号と砂時計の刻印が光っている。


田村が眼鏡を光らせた。「スキルカードだ」


弾幕が騒然となる


:復活カード!


:時止め能力!


:煉さんガチャ運最強!


「復活カードはダンジョン内で一度だけ蘇生可能。砂時計カードは戦闘中10秒間時間停止できる」


消耗品とはいえ、SSS級ダンジョンで命を繋ぐ究極のアイテム。市場価値なら高級車が買える金額だ。


煉がポケットに仕舞うそぶりを見せ、箱の仕切りをガサゴソ探る。発泡スチロールの下で何か柔らかい布地に触れた。


「お兄ちゃん、遊ぼうよ」


箱から飛び出した赤ずきんの人形に、煉が反射的にハンマーを振り下ろす寸前で停止した。


田村が説明を続ける。「ダンジョンクリア特典として、特定NPCを仲間にできる場合が。次回からは戦闘サポートとして連れていけます」

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チュートリアルを千回死んだら、破壊神になった件 @uxi

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