第2話 吉原

「吉原って遊郭がある吉原?」

 コクンとうなずく少女。俺はおでこに手を当て空を仰いだ。

(タイムリープ?…警察?)


 俺の頭の中で彼女が警察でいろいろと話を聞かれ検証され結局施設へと送られて泣いて暮らしている少女の図が頭をぎる。


「う~ん、とりあえず俺んちに来る?」

 コクンとうなずいて俺の手をぎゅっと縋るように握った。

(か、かわいい…)


 前髪を上げたおさげ頭。簡素な着物姿で俺の手を握りカラコロと下駄の音と大学近くの俺の一人暮らしのマンションへと帰る。


 親は今総理官邸に住んでいる。いろいろと巻き込まれるのも面倒なので一人暮らしだ。2LDKトイレ風呂別駐車場付き。父親の節税対策で購入された物件だ。仕送りは50万もらっているから一人増えても問題ない。


 使い方を説明してシャワーも浴びてもらい急いでコンビニで買った女性用パンツとキャミソールと俺のスウェット上下を貸してあげた。


「俺は矢部信二。君の名前は?」

「あちきはみやびともうしんす」


「俺は20歳なんだけど雅ちゃんは何歳いくつなの?」

「あちきは15でありんす」


「そっか…どうして吉原に?」

「あちきの家は農家でありんした。年々、周りの家がもう食っていけねえと出ていっちまいした。ついには家一件のために水の整備をやる費用がありんせんと通達が来んした。そこからは本に苦しゅうござりんした」


 雅は泣きそうになるのをこらえながら話し続けた。


「借金もとうさんたくさんあって9歳のあちきを売る事にしんした…

 女衒は『黒髪、黒目は高う売れる』って…吉原へと売られんした…

 

 年季が明けたらおとうとおかあに会える!そう希望を持っておりんしたが12の頃に強盗に入られて死んじまいした…もうあちきには帰るところがのうなってしまったでありんす…」


 涙がぽろぽろと流れ落ちているのに雅は話続けた。俺は彼女にタオルを渡し、背中を擦ってあげながら聞き続けた。


「14から振袖新造として16の突き出しまで花魁の露花つゆか太夫について勉強をしているところでありんす…」


 初めて聞く言葉ばかりでネットで調べる。って遊郭デビューじゃないかっ!それは客を取るって意味で…そ、それは…


 こんな幼い子がこれから多くの男性客と…親の借金でって…自分の意思なんてこれっぽっちもない!


 そんな事実についカルチャーショックを受けてしまった。


「振袖新造って?」

「振袖新造と留袖新造とありんす…留袖新造になっちまったら客をとらなきゃなんねぇ」


「えっ!」

(そ、それは14で留袖新造になったら客を取るって事?まだ中学生の年だぞ?)


 あまりの事実に俺はちょっと…いや…かなり引いていた。


「花魁の懇意のお客様がタイムマシーンってぇのを発明したでありんす…ただ1回だけしか使えんち。5日間の時間旅行ができるって…花魁はあちきが行くんであればなんとか誤魔化せるから…もう突き出ししてしまったら…本当に外には出られなくなるから…行ってこいって言ってくれんした…」


「5日間…じゃ5日間はここで暮らしなよ」

「いいんでありんすか?ありがとうござりんす」

 雅は優雅な動きで正座をして頭を下げた。


 使っていないゲストルームに雅を案内して俺は自室のベッドに入った。




 しばらくして雅が部屋に来た。


「一人じゃ寝られねえ…一緒に寝て欲しゅうござりんす」


 ベッドの背もたれに寄りかかる俺の横に入って横たわった。


(おぃぃぃ!俺も健全な男なんですけどぉっ!)


 雅は俺の服の裾をぎゅうっと握って眠りについた。


(落ち着け!俺!落ち着け!ここで手を出したら留袖新造を買う男たちど同等だ。さすがに15の小娘に手を出したらいかんだろっ!)


 なんとか俺の真ん中を落ち着かせる。

 ふぅぅぅぅと一息ついてタバコを一服。横でスヤスヤと眠るみやびは本当に子供の寝顔だった。


 雅が戻るのは5日後か…

 それまではせめて楽しい思い出を作ってやりたい。

 そう思った。

 


 


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