薔薇色の人生とは……🌹

この美のこ

薔薇色の人生とは……🌹


 麻里はファッションモデルとして活躍していた。

抜群のスタイル、堂々と優雅に歩く姿は自信に満ち溢れていた。

誰もが羨み魅了される順風満帆な薔薇色の人生を送っていたのだ。

しかし、運命のいたずらは突然やってきた。

ある日、交通事故によって頚髄を損傷し、下半身の自由を失なったのだ。

医師からは車椅子生活となると告げられた。

ずっと薔薇色の人生を送るはずだった。

そう信じて疑わなかった日々が、まるで幻のように感じられる今。

この現実を誰が想像しただろうか。




 絶望の中で生きる意味を見失い、麻里の心は深い悲しみに包まれた。

病院のベッドで自分自身の殻に閉じこもり泣きくれる日々。

薔薇色の人生が、灰色に変わってしまった。

その頃付き合っていた彼、誠にもヒステリックに


「もう来ないで!みじめになるだけだから……」と突き放した。


麻里は悔しかった。

もうこんな私の事は忘れて欲しいと……。

モデルの頃の華やかな私はもうどこにもいないの。


誠も悔しかった。

今の自分に何もできないことに……。

それでも誠は辛抱強く病院に通い続け麻里のそばに付き添っていた。



「薔薇色の人生を送るはずだった、なのに……」と麻里はぽつりと呟いた。


「薔薇色の未来を築くために、今を生きよう」と誠は優しく応えた。


 やがて麻里の心も少しづつ落ち着きを取り戻し、現実を見つめることができるようになった。

そこから懸命のリハビリが始まった。

リハビリをしていくうち、今まで誰かの手を借りなくてはできなかったことが少しづつ自分でもできるようになっていった。

自分の事が自分で出来る、この今まで当たり前と思っていたことが救いとなった。

リハビリを重ね、ついに退院できることになった。

しかし、麻里は不安だった。

退院したからといって自分に何ができるのだろう?

そんな時だった。

誠から

「友人がやっている彫金工房があるのだけど一緒に行ってみない?」

と誘われたのだ。


 数日後、麻里は誠に誘われるまま一緒に彫金工房に行った。

麻里にとっては初めて見る彫金の世界だった。

彫金という言葉は知っていてもどのような技法・製法なのかはほとんど皆無だった。

彫金とはたがねと呼ばれる銅製の工具を用いて金属の表面に彫刻を施してデザインする技法であることも初めて知った。

現在では鍛金たんきん鋳金ちゅうきんなどを含み、金属製のアクセサリーやジュエリーを作る技法全般として「彫金」と呼ばれている。

工房に飾られているアクセサリーなどを手に取って見ながら、誠の友人であるその工房のオーナーから色々説明を聞くうち麻里は興味が湧いてきた。


「彫金体験もできますから、興味があればやってみませんか?」

そう言われた時には

(体験してみようかな)

そんな気になっていた麻里だった。



 麻里はそれがきっかけでまずは彫金を体験してみることにした。

叩き、削り、切断、溶接など様々な工程を経て初めて銅板で作った麻里の作品は薔薇の花。

そこですっかり彫金の世界に魅せられていった。

元々器用だった麻里。

この細かい作業が麻里の性分にピッタリ合ったようだ。

素材選びは作品の個性にも繋がって面白い。

また、表現の可能性は無限大と言えるだろう。

素材と向き合い自分の手で形を生み出す、この奥深さに今まで感じたことがない高揚感で満たされる。

嬉しい彫金との出会いだった。

これなら車椅子の私でも出来る。

それが大きな自信になった。


 その初めての作品を麻里は一番に誠に見せながら


「誠、長い間ずっと支えてくれてありがとう。それから彫金工房を勧めてくれてありがとう。私これからもっと勉強して彫金工芸家を目指そうと思うの。初めての作品であまり出来は良くないけど私が頑張って作った薔薇の花、誠、受け取ってくれる?」


誠は麻里の作った薔薇の花を受け取りながら感激のあまり泣けてきた。


「やだぁ、誠ったら、これは練習作品だから……今度は誠にもっと素敵なもの作るから期待して待ってて!」


そう言いながら麻里の頬は涙に濡れながらも薔薇色に輝いていた。


「うん、期待してるよ。頑張ったな、麻里。本当に頑張ったな。興味の湧くものが見つかって良かったな」


「うん、頑張った!でもね……誠がいなかったら今の自分はいないから」


麻里と誠はハイタッチしたあと微笑みを交わしながら泣いた。


 麻里は苦しみを乗り越え、新たな未来を見つめ始めた。

麻里の心に希望の光が灯る。


 薔薇色の人生とは、完璧な幸福ではなく、困難を乗り越えた先に見える小さな希望の光なのだと知った麻里は、再び前を向いて進み始めた。

大好きな誠とともに。

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