貝殻の思い出

滝川れん

第1話貝殻の思い出

              貝殻の思い出

差出人が留美子と書いてある小包が届いた。隆は留美子という名前に覚えがなく誰だろうと考えてみたが分からなかったのでその小包を開けずに机の引き出しに入れてそのままにした。

数日後にまた差出人が留美子とある手紙が届いた。隆は何故この人は自分に色々送ってくるのだと思い封筒を開けようとしたが、吉雄との約束でカラオケに行くようになっていたので仕方なく手紙を机の上に置いてカラオケ店に向かった。

カラオケ店に着くと吉雄がロビーで待っていた。

隆「お待たせ部屋に行こうか。」

吉雄「ちょっと待て、紗理奈と和美が来るから。」

隆「いつ呼んだんだ?」

吉雄「さっき紗理奈からメールが“何をしているの?”と来たので今からカラオケをするから来ないか?と送ったら“行く”と返事が来たから待っていようぜ。」

隆「分かった。」と言って吉雄の隣に座わり話し始めた。

 隆と吉雄は高校3年で同じ高校に通っていた。二人は幼稚園からの知り合いだが中学生の時クラスは別々でほとんど話はしたことはなく高校1年で同じクラスになりその時から友人になった。

二人とも卒業後は地元の大学に進学するつもりでどちらも工学部を目指していた。そうこうしているうち紗理奈と和美がやって来た。

 彼女たちとは高校2年の時クラスが一緒になると吉雄と紗理奈が親しくなった。

紗理奈は休み時間に隆と吉雄が話をしている時に自然に話に入ってくるようになった。隆と吉雄も特に気にせず普通にしゃべっていた。

和美は自分から進んで何かをするというタイプではなく紗理奈が和美を引っ張ってこのグループの中に入れていた。4人は学校に居る時はよく一緒に行動していた。

そうこうしているうちにみんなが集まったのでカラオケルームに行った。カラオケはいつも初めに吉雄が十八番の曲をいれ歌いだす。この曲はみんながこれから歌いだして気分を乗っていけるものだった。

そして順々に歌い出し、歌う曲は大体決まっていてみんなが同じ曲をルーティンみたく歌っていた。3時間くらいすると大体みんな歌いたい曲は終わるが、すぐには帰らずにカラオケボックスで話をする。

今日はもうすぐ文化祭があるのでそのことについて話し出した。今年はクラスで出店をすることになり焼きそばを出すことになった。

誰が焼きそばを作るのかが問題になったが、紗理奈がお好み焼き屋でバイトをしていて焼きそばも作っていたので作り手の役が回ってきた。ほかに盛り付け会計をする係りが決まり隆と吉雄は呼び込みになった。

そんな話をしていると帰らなければいけない時間になったので隆は紗理奈、吉雄は和美を送っていくことになり、カラオケ店を出て二手に分かれ帰っていった。

 隆は家に着くと机の上に置いた手紙に光を当てて中身を確認したが危険な物は入ってなさそうだったのでハサミで封筒を開けて便箋を取り出した。便箋は1枚で『21日夕方貝殻をもって港に来てほしい』と書いてあった。

 隆は”貝殻って何だ?”と思ったがちょっと考えて小包の事を思い出し引き出しから小包を取り出して開けたら指輪を入れるケースが出てきた。

ケースを開けると貝殻の半分が入っていたが隆はなんでこんな物が送られてきたか考えてみたがこれといった心当たりはなかった。いくら考えても分からず横になっていたらウトウトして寝てしまった。

 次の日隆は朝起きて登校している途中21日の夕方どうしようか考えていた。その日は学園祭の当日で終わるのが夕方ごろになるが一人で行くのは不安な部分があるので吉雄に相談して一緒についてきてもらうようにしようと考えた。

 学校に着くと自分のクラスに入り周りを見渡したが吉雄はまだ来てなかったので席について来るのを待った。吉雄は始業のベルが鳴ると先生と一緒に入ってきたので話はできず1時限目の授業が終わるまで待って話そうと思った。

 授業が終わり吉雄に話しかけたが吉雄は隆が話そうとしているのを遮って

「すまん部室に体操着を置いているから取りに行ってくる。」と言って部室に走っていった。吉雄は野球部に入っていたが夏の大会が終わり今は引退している。しかしOBとして時々後輩の指導に行っていた。

 隆は体操着に着替えると体育館に向かった。体育館で準備運動をしていると吉雄が入ってきた。

吉雄「何か話があるのか?」

「相談したいことがある。」と言って貝殻の事を話して「港に一緒に行ってくれないか?」と訊いた。

「21日といったら明日じゃないか文化祭が終わってからいくのか?」

「そのつもりだけどダメか?」と訊いた。

「別に構わないがなぜそれが送られてきたのか全然心当たりがないのか?」それに対して隆は頷いた。

 吉雄「そうか・・」と言い間をあけて話題を変え

吉雄「放課後に出店の最後の仕上げをしなければいけないので備品の調達はできているのか?」

隆「ああ」

吉雄「分かったそれじゃあ授業に入ろうぜ。」と言って吉雄は器械体操の練習している列に並んだ。

今日の体育の授業は先生が来ないので各自苦手なところを自主練するようにとのことだったので隆と吉雄は時々鉄棒の練習をしながらしゃべっていると時間が来た。放課後になり二人は出店のテントに向かった。

テントには紗理奈と和美が先に来ていて焼きそばを試作していた。吉雄が声を掛けると紗理奈が「丁度焼きそばが出来たから試食してよ。」と言うと焼きそばを皿に盛って差し出した。

吉雄「OK」と言って皿を受け取ると別の皿に半分移して隆に渡して「隆も食べてみて感想を言いな。」と言った。

 隆は焼きそばを受け取ると「いただきます。」と言って食べた。吉雄も食べて紗理奈のほうを見て

「うんおいしいよ。これだったら売れそうだ。」

紗理奈「でしょう私の焼きそばは結構お客さんに評判がいいから。」

 隆は和美を見て「君は見ているだけ?」と声を掛けると和美は

「失礼しちゃうちゃんと仕事しているわよ。」と言った。

隆「何しているの?」和美は小さな声で「味見」と言った。

隆は少し笑顔になると和美は視線を落とした。

すると紗理奈が「味見をする人も必要なのよ。」とフォローした。

隆「ごめん特に何かの深い意味は無いんだ。」

和美「大丈夫なにも気にしていないから。」

それを見ていた吉雄が「なにをイチャイチャしている気分悪いな。」少し語気を強めて言った。

隆「なにイライラしているのだ?」

吉雄「別にイライラしてないよ。」

隆は吉雄を見て「分かったヤキモチをやいているな。」続けてみんなに聞こえるように大きな声で「吉雄は和美が好きだからな!」と言った。

吉雄は慌てて「何馬鹿なこと言っているのじゃあないよ。」と否定したが顔は赤くなっていた。

和美も少し赤くなって「私忘れ物がある。」と言って校舎に走っていった。

隆はとぼけたように「何か悪いこと言ったか?」と吉雄を見ると

吉雄「これ以上とぼけたことを言うと口を利かないからな。」と、怒った口調で隆を見た。

隆は少しやりすぎたかなと思い片手を顔の前に持ってきて拝むようなポーズをした。そのやり取りを見ていた紗理奈は「仲がいいわね。」吉雄は紗理奈に「君もその仲間の一人だよ。」

紗理奈「ありがとう仲間に入れてくれて嬉しいわ。」と言うと鉄板の後片付けをしだした。

隆「早く準備を終わらせよう。」と言って持ってきた備品をテーブルに置きだした。吉雄も準備に取り掛かった。

準備は1時間30分くらいで終わり下校の支度をして帰っていった。和美はあれからテントには帰って来なかった。

21日になって文化祭が始まった。天気は薄曇りだが雨の心配はなかった。文化祭が始まってからお客さんは順調に入っていて色々な出店があり賑わっていた。

隆の学校の近くには男子高校がありそこの生徒たちは共学の隆の高校の文化祭を楽しみにしていた。今年の文化祭も例年の通りたくさんの男子学生が来ていた。

隆と吉雄は朝来てすぐに呼び込みをやって客さんを連れてきていた。そんなことをしていたら昼食の時間になりお客さんがたくさん集まって来たので隆と吉雄は呼び込みをやめて焼きそば作りを手伝った。

 そんな状態が1時間ぐらい続きお昼が過ぎるとお客さんが来るのもひと段落つき仕事も無くなってきた。隆は紗理奈に他のクラスの出し物を見てくると言ったら。紗理奈が

「OK、OKサッサと言ってきて。」と返事を返した。

隆と吉雄は他のクラスがどんな出し物を出しているか一通り見ると今年の文化祭は結構賑わっていたなと話しながらテントに戻った。

テントではお客はいなくなっていて紗理奈と和美がテーブルの前に座って昼食を食べていた。そこに隆と吉雄が入ってきた。

それに気づいた紗理奈が「そこのテーブルに二人の分の食事があるから。」と言った。二人はテーブルの前に座り食べ始めた。10分位で4人とも食べ終わって和美が後片付けを始めた。

お昼ご飯を終わって落ち着いた隆たちは今日どのくらいお客さんが来たか紗理奈に聞いた。紗理奈は伝票を集計しながら「大体35人くらい。」と言った。

目標は40人だったので文化祭が終わるまでに時間があるので「それまでに売り切ろう。」と誰ともなしに言って隆と吉雄は呼び込みに戻った。暫く二人は呼び込みをしていたが文化祭の終わる時間になり校内放送で片づけを始めるようにという放送が流れたので二人はテントに戻って行った。

そこで紗理奈に何か言っている男がいたが雰囲気が何かおかしかった。隆は二人の間に入って紗理奈に「何かあったの?」と聞いた。

紗理奈の前にいた男が「お前は黙っていろ!」とすごんで隆を睨んできた。隆は紗理奈を見るとすると紗理奈が

「この人が、文化祭が終わったら『カラオケに付き合え』と誘ってきて「忙しい」と、断っても、『いいじゃないか』としつこいの」と言った。

隆「彼女はカラオケを断っているのでここは帰ってもらえませんか。」と男に言った。

男「うるさいなお前は!俺はこの女と話をしているのだから出しゃばらずにお前こそどこかに行ってしまえ!」と語気を荒げた。

隆「彼女は僕の友達なので困っているから助けているのです。」続けて

「ここは学校なので騒ぎになると色々困ることになります。ここは引き取ってもらいませんか?」男はしばらく黙って隆を睨みつけ

「どうやら痛い目に合わなければわからないようだな!」そう言うと男は隆に殴り掛かった。

隆は拳が当たる瞬間にしゃがんでかわすと男は隆の脇を抜けて2~3歩通り過ぎて止まると振り返りまた隆に襲い掛かろうとした。その時、吉雄が男の後ろからタックルをして羽交い絞めにして地面に押さえつけた。

それを見た隆は男に飛び掛かり足を押さえつけて「警備員を呼んで。」と叫ぶと和美が「私が行ってくる。」と言って警備室に向かった。

男はしばらくじたばたしていたがすぐにおとなしくなり和美が連れてきた警備員に連れられて行った。隆と吉雄は服が汚れただけでケガなはなかった。 

そんな出来事もあったが店内の片づけもほとんど終わって隆と吉雄は港に行こうとした時

紗理奈が「何か変な手紙が来て港に行くのでしょう。私たちも行く。」と言った。

隆は吉雄を見た。すると吉雄は「特に隠すこともないと思って・・・。」と言った。

隆も「しょうがないな。」と言って4人で港に行くことになった。

港に着くと陽が沈みかけていてあたりは暗くなり始め街灯には灯がともっていた。4人は雑談しながら留美子と名乗る者が来るのを待っていた。すると奥の暗がりに人影が見え始めその人影は段々近づいて来て迷うことなく隆の前で止まった。

留美子と名乗るその人物は小柄で顔はかわいいという感じだった。隆は留美子をまじまじと見て誰だったか思い出そうとしたが思い出せなかった。

留美子は隆に向かって「覚えている?」と話しかけてきたが隆は返事が出来なかった。

すると留美子は「貝殻は届いた?」と聞いてきた。隆はカバンからケースを出して

「これの事かな?」と留美子に見せた。留美子はそれを見て「そうこれ」と言った。

そしての言葉を探して黙って隆は留美子を見ていたが言葉が見つからず困っていた。

留美子は「思い出せないの?」と言って隆を見て言った。

そんなやり取りを見ていた吉雄が「あー思い出した。」と大きな声を出した。みんなは吉雄をみた。吉雄は「小林留美子だ!」と言った。隆はそれを聞いてもまだピンときてなかった。

続けて吉雄は「幼稚園の時に一緒ですぐに転園していたやつだ!」と叫んだ。留美子は微笑みを浮かべポケットから貝殻を出し隆に見せた。

それを見て隆は驚いた、その貝殻には幼稚園時代に好きだったキャラクターのシールが貼ってあった。

留美子「私が引っ越しする前の日に隆君がくれたものなのよ。」

続けて「貝殻を送れば私の事を思い出してくれるかなと思っていたけどだめだったみたいね。」

隆は何と言っていいかわからずただ留美子を見ていた。それから隆は

「なんでこれを送ったの?」と言うのが精一杯だった。

 留美子は「来月家族でイギリスに移住することになったので荷物の整理をしているときにこれが出てきて何か懐かしい気持ちになって会いたいと思いこれを送ったの。」

続けて「すぐには思い出してもらえなかったけど会えてよかった。」

隆は「思い出せなくて・・・。」と言い掛けたがそのまま言葉を失った。

留美子は吉雄に向かい「吉雄君も覚えているわ。一緒によく遊んだわね。」

吉雄「ああ、覚えているよ。」と言った。

留美子「短い間だったけど子供の時の思い出として覚えているわ。」

続けて隆に「突然手紙を送って迷惑だった?」

隆「いやそんなことないが・・」

留美子「よかったこれで安心してイギリスに行くことができるわ。」と言いそして「もう帰らなければいけないので帰るね。」と言い続けて

「ありがとう、バイバイ。」と言って帰って行った。

4人は留美子を見送っていた。

留美子の姿が見えなくなると和美が紗理奈に「私たちついて来てよかったのかな?」

紗理奈「まあ丸く収まったからいいじゃない。」と言い

隆が「僕たちも帰ろう。」と言って4人も帰って行った。

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貝殻の思い出 滝川れん @maekenn09

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