第13話

4、本気にならない


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世の中には、有り難迷惑な偶然がある。



これは仄かな恋心を抱いた少し後のこと。

時間でいうと1年弱ほど前に遡る。



30分のサービス残業を終え更衣室へ行くと、紗由理が着替えをしているところだった。



久しぶりだということで、そのまま飲みに行ったのが不運な巡り合わせの始まり。



「あ、彼の仕事も終わったみたい、今から混ざりたいって言ってるけど良い?」



近況報告という名の惚気話がひと段落した頃、紗由理のスマホにメールが届いた。



わたしに確認するより先に「待ってるね」と彼に返事を送ったことは見なかったことにしておこう。



「わたしは良いけど、彼氏って会社の人?」



「うん、そう。夏南も知ってると思うんだけどなぁ?知らないかな?」



紗由理は頬杖を付いて、スマホの液晶を人差し指でなぞる。

愛しげな視線をそこに落す彼女を見て、幸せそうだな、と思った。



「そういや夏南さぁ、彼氏作らないの?可愛いのに勿体無いよ、興味がないとか」



彼氏持ちに有りがちな余裕発言だな、と心の中で毒づき、.....「興味が無いわけじゃないんだけどね」と返した。



「あ、きた!拓海さん、こっちこっち」



スーツの上着を手に持って、少々疲れた笑顔で傍にやって来る紗由理の彼を見て息を飲む。




蒼井さん.....だ、

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