第10話

3、魔女は誘惑する


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金曜日の駅前は賑やかだ。

まだ夕方の19時前だというのに、既に顔を赤らめた輩がハイテンションで肩を組んで歩いている。



携帯電話を耳に当て待ち合わせ場所を確認している人、手を繋いで仲良く歩くカップル、団体さんで歌を歌いながら歩いている人たち。



それらを避けるようにして進み、駅の反対側へ出るとガラリと雰囲気が変わる。

しっとりとしたムードのお店が並ぶ、まさに大人の街だ。



目当ての店はすぐに見つかった。

そして、その前で立って居るすらっと背の高い人も。



腕時計で時間を確認しながらも、相手の元へ駆け寄る。



「蒼井さん」



ただそこに立っているだけで絵になるような彼は、周りにいる女性の視線を集めていた。



ドキドキと跳ねる胸を必死で抑えながら、何でもない風を必死で装う。



「あの、紗由理が....」



「知ってる、立ち話もなんだから行こうか」



「......はい」



わたしの姿を確認した蒼井さんは、クルッと身体を反転させた。




贅沢もんだよね?あいつ




わたしに背を向けて歩き出した蒼井さんを見ながら、景子の言葉が頭の中で、くるくると回った。



確かに贅沢者だ。

粗末にするなら、わたしにくれてもいいのに。

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