第3話

身の丈にあった恋愛をしなければ、胸が苦しくなる。

背伸びをして頑張った恋はやがて、踵を地面に付けた瞬間に壊れる。



恋心を抱くのは簡単、それを持続するのは難問。



到底叶いそうもない相手を想うには、補強力の高いトゥーシューズが必要だ。




「あ、麻生さん、これ良かったら使って」



フロアを去ったはずの蒼井さんが戻って来て、スーツのポケットから小さな包み紙を出した。



「.....?何ですか?」



「いつもお世話になっているお礼、試作品のバスソルトなんだけど、良い匂いらしいよ」



「ありがとうございます」



「こちらこそありがとう、麻生さんの笑顔を見れたら午後も頑張れちゃうんだよね」




ただ、彼は不意にわたしをときめかす。



いとも簡単に容易い方法で。



そして、わたしは必死で踵を地面に押し付ける。



この人に本気になってはいけない。

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