第2話

1、つま先立ちの恋


---------------------------------





「麻生さん、この用紙にハンコ貰ってもいい?」



「あ、はい」



丸く綺麗にカットされた爪先が差し示す場所へ、課長のデスクから拝借したハンコをポンっと押す。



「ありがとう、助かるよ」



ニッコリと笑う彼に、「どういたしまして」と笑顔を返した。



営業部の蒼井拓海(アオイタクミ)。

わたしと彼との繋がりは、たったこれだけ。

週に1度あるかないか、それも課長が席を外している時にだけ代理でハンコを押す間柄。



爽やかな香りを残してフロアから立ち去っていく彼の背中を見つめ、心の中で呟いた。





つま先立ちをするには、無謀だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る