第30話

「ちょ、ちょっと待って、私も着替えるから」


「どうして?あいはそのままでいいじゃん」


「よくないよ。これ普段着だし、すっぴんだし!」




どこで誰に会うか分からないでしょ、そう続けると、ほまれはニコっと笑って私の頭を撫でた。




「あいはすっぴんでも充分可愛いよ。服装だって俺はそういうラフな方が好き!」


「……ほまれの好みは聞いてないよ」


「えー、デートの相手なのに?ね、もう本当にいいじゃん。早く行こうよ、時間が勿体ない」


「あ、もう!」




ほまれに急かされながら、せめてもと帽子と大きめのニットを手に持って家から出る。


コンビニだってこんな格好じゃ行かないからね、そんな文句を言いつつ、心は弾んでいた。


デートしよう!って誘われるのも、どこに行くか決めずの取りあえず家を出るのも、懐かしくてちょっぴり新鮮。


大人になると、どこそこのお店に行きたいとか、面白いイベントがあるからとか、何かしら目的が無いと出掛けたりしなくなるものだけど、こんなのも良いな。学生時代に戻ったみたいだ。




「あい、早く!」


「はいはい、ちょっと待って。郵便ボックスだけ見る」


「手紙?」


「うん、昨日、チェックしてなかったから」


「早くね」

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