第2話 スキル使用はチュートリアルと共に
改めて自分のステータスを覗いてみる。
ステータスというのはこの世界では当たり前にある、自分の経歴をみることのできる魔法だ。魔法のセンス有無にかかわらず、ほぼ全ての者が扱える魔法の一つでもある。
スキル<
・ランクSSS
・超狙撃術。触れている弾丸と認識したものを何でも発射する
・最大飛距離2000m、神霊防御無視
・この世に神も仏もあるものか
最後のフレーバーテキストがイラッとするなこれ。でもスキルはみんなこんな感じで余計な一言が書かれていたなと思い出した。
たとえば父の<
それはそれでフォローになっているからいいけど、何で俺のは生前の今際の際の言葉が書かれているのか。これがわからない。
「参ったな。完全にあの文献の通りになっちゃったぞ」
俺が読んでビビり散らかした文献には、運命の奔流に巻き込まれるとそう書いてあった。
運命の奔流って何だろうか。たとえば勇者になって魔王を倒しにいくとかそういうものだろうか。
ところがどっこい、このファンタジーの世界にはすでに勇者も魔王もなかったりする。
そういう戦争があったのは数千年前の話で、今は魔族もフツーに領内で暮らしている。俺の友達にもいる。魔王はいるにはいるけど、父曰くめっちゃノリのいい人だとか。
何で知っているんですかと聞いたら「ちょっと昔、な」とウインクされて誤魔化されたっけ。
ま、それはいい。
勇者と魔王の時代がないなら、考えられる「運命の奔流」とやらは二つしかない。
国家間戦争か、それとも全く知らない第三勢力の侵略か。
……俺のスキルはそういうのに備えろって事なのだろうか。
「やだぁ……俺戦いたくないよぉ……シェスカぁ」
めそめそと泣きながら「天啓の石碑」を後にする。もうめっきり甘え癖がある俺は、こうやって凹むごとにシェスカの名を呼んでしまう。
「てかどう説明すればいいんだろうこのスキル。シェスカが見たら……」
見たら、これもまた二つに一つ。大喜びするか、ドン引きするかどっちか。多分後者の方だろう。
両親が見たらこれまたどうなるんだろうか。やっぱり大喜びするか、ドン引きするかのどっちかだろうか。
大穴で「実はそう言うこともあろうかと……」と秘密の部屋に呼び出してやたらゴツい装備を渡されるとか……そういうのはないよね?
「……ちゃんとアビリティも会得して、備えていたのになぁ」
とぼとぼ歩きながら、ステータスを恨めしく眺める。
アビリティ
【統率Lv2】:小隊規模のパーティーリーダーになれる
【統治Lv2】:村の経営ができる程度
【商業Lv2】:基本的な経営術と税金について対策ができる
【農作業Lv2】:農作業を滞りなく手伝える程度
【清掃Lv2】:屋敷を綺麗にできる程度。メイド長から伝授
【料理Lv2+】:毎日食べたい味。メイド長から伝授
【剣術Lv2-】:一通りの基本はあるが苦手
【喧嘩術Lv3】:武装した人間を制圧できるが、過信しないこと
アビリティというのは後天的スキルと言えばいいのだろうか。レベル1から5まであって、これは習得と修練度によって上下する。
1は習い始めから趣味程度、2は得意分野あるいは学士を納める程度。3から上は専門的に商売ができて、4はプロフェッショナル。そして5は達人級とか、そんな認識でいい。
これで何ができるというより、できたからこう表示される。前の世界の感覚でわかりやすく言えば、資格みたいなものだ。
例えば俺が冒険者だったとして、【統率Lv2】持ってるからリーダーできるねーとかそういう感じだ。
見てわかる通り領主になるためのアビリティと、メイド長つまりシェスカに「今時の男児は家事もできませんと!」と仕込まれたものが多い。
剣術については父上や衛兵達に一通り、嗜み程度には習うも俺にはあんまりセンスがなかったみたいだし、父上もあまり剣は習わせたくない感じだった。
代わりにと教えてもらった喧嘩術はそこそこ伸びた。というか父も衛兵達もこっちの方が夢中になって教えてくれた。辺境とはいえ貴族の俺には野蛮すぎないかなと思ったけど、
「若様は大切なお世継ぎですから、身を守るにはこのくらいが丁度いいですよ」
と兵長が言っていたっけ。
「……ま、父上に相談かな。もう考えるのヤダ。とりあえずシェスカに甘えたい」
「いやああああ!!」
聞こえてきたシェスカの悲鳴に、思わず駆け出す。
石の門が見えてくると、その奥でシェスカが何かに取り囲まれているのが見えた。
「ゴブリン!? 何でこんなところに!」
シェスカを取り囲んでいたのは、緑色の肌の亜人だった。子供くらいの大きさで粗末な棍棒を持ち、長い鼻とギョロっとした目が特徴的だ。
下卑た笑いを浮かべ、シェスカをジリジリと追い詰めている。シェスカは何度か攻撃を受けたのか、メイド服が破れかかっていた。石の門を背にひどく震えている。
そしてゴブリン達の、その
「シェスカ!」
「若様!? 逃げてくださいまし!」
「絶対助ける!」
ヘルハウンドとか猛獣ならダメだったけど、ゴブリンだったら俺でも倒せるはず。
習得している喧嘩術は徒手空拳だけど人体特化しているから、鎧さえ着込んでいなければ――!!
「ダメ! 危ない!!」
シェスカがそう絶叫して、俺の背後へ視線を促す。
振り返ってみると、そこにはゴブリンがいた。
伏兵だと思った時にはもう遅かった。俺の背後をとったゴブリンは飛び上がり、俺の頭に棍棒を振り下ろそうと――
『チュートリアルを開始します』
突如として、空から無機質な声が聞こえてきた。
「えっ」
世界の時間がスローになった。飛び上がるゴブリンの速度が著しく遅くなる。一方俺はというと普通に動くことができた。
『石/弾丸を拾ってください』
最初こそ狼狽えてしまったが、言われるままに足元の小石を何個か拾う。飛び上がるゴブリンはまだ上昇を続けている。
『左手で石/弾丸を握り、右手で指鉄砲を作ってください』
その通りにして、指鉄砲を作った。
『対象に指鉄砲を向けてください』
こんな感じかなと、指鉄砲を背後に迫るゴブリンに向けた。
するといきなり、指鉄砲の先に左手にあったはずの小石の一つが浮かび上がった。
すぐに回転を始める小石。ギュアアアアアアと超高速回転が始まり、やがて白銀の輝きすら纏うようになる。
『引き金を引いてください』
引き金って何だよと思ったけど、これは精神的なものなのだろうか。
『引き金を引いてください』
迷っていると急かされてしまった。
ゴブリンを見ると、今ようやく棍棒を振り下ろそうとしている。
ええい、ままよと言うことで
「――
と、そう叫んだ。
瞬間、時間が戻った。
そして撃発の音とばかりに爆音が響き、俺の指鉄砲の前で回転していた石が勢いよくゴブリンに突き刺さる。
「ギャアアアアア!」
発射した石がゴブリンにヒット。それは軽々と胸を貫き大穴を開けた。それどころか奥の木々を薙ぎ倒している。おっかねえ!
「ギッ!? ギギィ!?」
シェスカを囲んでいたゴブリン達が仰天してこちらを見ていた。
「若……様……?」
シェスカもまた目を丸くしてこちらを見ていた。
俺も驚いていた。というか震えていた。あまりにも強すぎるスキルに、おしっこ漏らしそうになった。
「こ、こんな。小石でコレって……」
「ギャギャギャ!」
シェスカを取り囲んでいたゴブリン達が一斉にこちらに向かってきた。
「若様!」
「シェスカ! 伏せてて!」
びびっている場合じゃない。俺はすぐさま振り向くと、指鉄砲をゴブリンに向ける。
人差し指の先に再び、左手に持っていたはずの小石が現れて回転を開始。
「
爆音を伴って石が発射される。先頭のゴブリンの眉間にめり込んだかと思いきや、そのままパァン! という音と共に顔面を破壊。首のない死体がよろよろと歩き、そして倒れた。
「
すぐさま次のゴブリンに指鉄砲を向け、石を発射する。ゴブリンの右の鎖骨あたりに石がめり込むと、次の瞬間ビチャァ! という音と共に右肩から上が全部無くなった。
「
次のゴブリンに指鉄砲を向けて、石を発射する。眼前に迫り、飛び上がったゴブリンにほぼゼロ距離射撃。
石はゴブリンの腹にめり込むと、そのまま四肢が飛び散り爆散する。勢いの消えない石の弾丸は奥の木々を薙ぎ倒して、はるか空へと吹っ飛んでいってしまった。
あまりに凄惨な光景にクラッと来てしまったが、まだゴブリンは残っている。ここで俺が倒れたらシェスカがやられると、何とか意識を繋ぎ止める。
「まだやるのか! 俺は容赦しないぞ!」
まだ残っている、明らかに戦意を失ったゴブリン達にそう告げる。ゴブリン達は俺とシェスカに目を向けて、まだどうするか迷っている様子。
「
左手に残っていた最後の小石をすぐ近くの地面に向けて発射。すると地面は大きく抉れてクレーターのようになった。舞い上がる土煙が自分にもかかり、思わず咳き込んでしまう。
「ギィー!!」
流石にこれで力の差がわかったのだろうか、ゴブリンはケツをまくって逃げ始める。
やがて森には静寂が戻り、聞こえるのは鳥の声だけになった。
『チュートリアルを終了します』
またしても無機質な声が響く。
『スキルの導きがあらんことを。アレン・アーバレスト』
何が導きだコノヤロー!
ほとんど兵器じゃねえかコンチクショー!
と、天に突っ込む前にシェスカの元に向かう。シェスカは震えていたが、俺が手を差し伸べるとガッと掴み、そして抱きついてきた。
「若様……若様! 若様!!」
豊満な胸を押し付けて、ワンワンと泣くシェスカ。ついさっきまで俺の事を子供扱いしていたのに、今は立場が逆転している。
「もう大丈夫」
「若様……あの力は……スキルでございますか?」
「うん、そう」
「やはり。シェスカは信じていました。きっと素敵なスキルを賜ると!」
ぎゅっと抱きしめられて、俺もまた抱きしめ返す。
「ああ若様。とてもかっこよかったです。こんなに凛々しいお顔でしたでしょうか」
「シェスカ」
「ずっと子供だと思っていましたのに。もう大人になられたのですね、若様」
彼女に頭を撫でられながら、確信した。
この力、そしてこの威力――これ、スローライフ終わったわ……ということを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます