神殺しSSSランクスキルとかやめてくれ、俺は転生した領地でスローライフを満喫したいだけなんだ! 〜転生次期領主様の冒涜なる予定外チートスキル学園〜
西山暁之亮
第1話 スキルランクSSS
前の人生は酷かった。
社畜として過労死しそうな日々の中、立ち寄った銀行で強盗に鉢合わせして――あまつさえ銃で撃たれて死ぬだなんて。
死の間際、目の前に流れるのは走馬灯。改めて見ると俺の人生は幼少期から大人まで、まるで不幸の見本市のようだった。
俺は他人事のようにそれを眺めながら
「……この世に神も仏もあるもんか」
「仮にいたとしたら、ぶっ殺してやる」
そう力なく呟いて、あっけなく事切れた。
死の淵で『ああすればよかった』『こうすればよかった』が、俺をどんどん暗闇に押し込んでいく。
そして悟る。クソでも、クソなりでも、後悔しない人生を送りたかったと。
――それが
さすがに哀れんだであろう神様が俺にチャンスをくれたようだ。
異世界転生という、二度目の人生を。
ここは剣と魔法の世界。リーンガルド王国の西方、アルバレスト地方。
雄大な霊峰に四方を囲まれ、青々とした空には飛龍が悠然と飛んでいる。地に広がる青々とした草原には、風に乗ってやってきた妖精シルフ達が踊っていた。
よく言えばファンタジックで牧歌的、悪く言えばど田舎。つまりは、いわゆる辺境領というやつだった。
俺はこの地を統治するアーバレスト家の長男アレン・アーバレストとして生を受けた。前世の知識を引き継ぎながら赤子スタートだったのは驚いたものだ。
俺はとても愛されていた。口ヒゲの立派な父ガリル・アーバレストは俺を溺愛していたし、母も、そして美しいメイド達もみんな俺を可愛がってくれた。
あまりにも愛に溢れていたので、俺はやがて赤子を演じる必要もなく、それどころか幼児退行……いや幼児をやり直すように甘えていた。甘えに甘えて、愛を噛み締めていた。
俺は前の人生で、望まれずに生まれたとしか思えないような扱いを受けていた。両親ともに毒親で半分ネグレクト状態。学校でもいじめられていたので、子供時代なんか思い出したくもない。
それと比べれば天国だった。
父は元々王国騎士で数々の武勲を建てたと母は言っていたが、そんな事を誇りもせず遊んでくれた。領民からも慕われていて、身分制度が残る世界なのに領民の子達も我が子のように愛していた。
教育についても「お前が好きにやればいい」と自由に伸び伸びやらせてくれたし、たかだか四則演算ができただけで飛び上がって喜び、宴を開くほどだった。
そんな中でスクスクと育ち、あっという間に15歳になった。
今の俺の夢は、父の跡を継いでこの地を治めること。そう公言しても恥ずかしくないくらい、俺はこの土地を愛しているからだ。
――そのためには、これから行われる儀式を無事に完遂しなければならない。
「若様。準備はよろしいですか?」
「うん。行こうかシェスカ」
俺はお付きのメイドのシェスカと共に、ここ領地の北の森に来ていた。
目的はこの奥に安置されている「
スキル。
まるでゲームのような響きだが、それと変わらないものだと思ってくれて構わない。
この世界では15歳になる者が必ず「天啓の石碑」からスキルをもらう事になっている。
スキルを宿すと特別な力を使えたり、職業に適性が出たり、行動にボーナスが追加されたりと実に様々。ある意味、スキルは人生を左右すると言っても過言ではないだろう。
石碑に至る森の道は石畳で舗装されていて、歩くのに苦労はなかった。ただ「石碑まであと何メイル」の看板を見るたびに、俺には緊張が走った。
……変なスキルをもらったらどうしよう。
ここ数日、そればかりがずっと気がかりだった。
ベストなのは父と同じ統治系のスキルだ。父ガリルは<
スキルは今まで過ごしてきた日々の経験、そして何より遺伝が大きくかかわるらしい。なので俺はスキル発現のため、父に領主になるための教育を積極的に受けていた。
可能な限り努力したから大丈夫なはず……なんだけど……自信がないのは「そうとも限らない」と書かれた
――強いスキルを宿した者は、その運命の
そんな一文が印象的だった文献には、何万人に一人かは血統も生き様も関係ない強烈なスキルを宿す事があり、多くの場合はいろんな意味で波乱の人生を送ることになるとのこと。
まるで英雄譚の導入部だ。
のほほんと田舎暮らしを満喫していた俺には関係ない……。
と、思いたいのだが俺は異世界転生者なのでわりかし無視できない話だった。
――神様お願い。もう十分幸せなんだ。
チートスキルとかいらないから、ここにいさせてください。世界とか救いたくないです。
優しい父と母と、気のいい領民達と――ついでにメイド達にチヤホヤされて生きていきたいんです。
ガチで、頼みますよほんとに!
「そんなに思い詰めなくとも、大丈夫でございますよ若様」
シェスカが俺の手を握り、そして微笑む。長寿種であるダークエルフの彼女は俺が生まれてからずっと美しいままだ。
多分彼女の推測している俺の不安と、実際のそれとは大きな差があるが……それは口にはしないでおこう。まだ誰にも異世界転生者で前世の記憶持ちとは言ってないからね。
「きっと素敵なスキルを賜ることになりますよ」
「そうかな」
「シェスカは若様の努力を知っています。きっとガリル様のような<
「悪いスキルだったらどうしよう」
「それはあり得ません。
「なら、<
「ウフフ……素敵でございますね。そうしたら是非とも旅のお供にさせてくださいまし。若様が心配ですから」
シェスカなら本当についてきそうで怖いんだけどね。生まれてこのかたずーっと側にいてくれたから。
「ほら若様。門が見えて参りました」
いつの間にか目の前にあったのは石造りの立派な門。看板にはご丁寧に「この先、天啓の石碑」と書いてあった。
「ここからは若様お一人になります」
「シェスカもついてきてよ」
「ダメですよ若様。そもスキル授与は神聖なものです」
めっと叱られ、ちぇー、と口を尖らせながら門をくぐる。
しばらく歩いて見えてきたのは、鬱蒼としげる樹々の中にポッカリと空いた空間。そして、その中央に立つ
高さは5メートル……この世界だったら5『メイル』か。幅は2メイル程度。奥行きは50センチ……この世界で言う『セチル』くらいだろうか。
横と縦の比が9:16の自然界には不自然なほど完璧な縦長方形が噂に聞く「天啓の石碑」。こんなのが国の至る所にあるらしい。
不思議な石碑だった。黒く輝いていて、まるで――そう、電源を切った巨大なスマホと言えばいいか。
俺には見慣れた形だけど、この世界の人にとってはかなり異質で、だからこそ神々しいものに見えるに違いない。
しばらく目の前に佇んでいると、石の表面が不自然かつ超常的に波打った。
『手を掲げよ』
真ん中にそう輝く文字が浮かび上がる。太古の魔法か何かだろうか。言われるままに右の掌を向ける。
すると石からレーザー光のようなものが発射されて、俺を頭の先からつま先まで走査した。
『アレン・アーバレスト15歳。人間族、男。汝はガリル・アーバレストの嫡男として生を受け、このリーンガルド王国西方アルバレスト地方にて……』
と、そんな感じで俺の半生がザーッと書かれていく。想像以上に細かいのは気のせいか。初めての失恋の日まで書かれているんだけど。
なるほどシェスカが一人で行かせるわけだ。こんなの他人に見せたら恥ずかしくて死んじゃいそう。
でもこれ、
ここまで細かく書かれるということは、聞いた通り今までの経験が考慮されてるって事だよね?
信じていいんだよね、神様!?
『よって、汝に与えるスキルは……』
いよいよだ。
頼む、父上と同じやつにしてくれ。
次点で<
『スキル<
「……………………はい?」
なんか、思ってたものと大分ベクトルが違うのが来た。
え、何その
てか今までの経験関係ねー!
『ランク:SSS』
『超狙撃術。触れている弾丸と認識したものを何でも発射する』
『最大射程距離2000メイル、神霊防御無視』
ふっざけんな完全に攻撃スキルじゃねーか!
つーか何その対物ライフルみたいな射程距離はよ!
俺に何をさせる気だよ異世界でスナイパーやれってか!?
あと神霊防御無視って何!?
『この世に神も仏もあるものか(笑)』
「神様ぁぁぁぁ絶対あの時の言葉根に持ってんだろオイイイイイイ!!」
響く絶叫、こだまする声。森の静寂を切り裂いたそれは、しばらくすると染み渡るように森の闇へと消えていく。
やがて計ったように石碑から鐘の音が響き渡り、俺のところだけパァッとスポットライトが当たったように明るくなる。
おいやめろ。
今、絶対スキル宿しただろ!
「わ、ワンモア! もっかい! こんなの納得できるか!」
『☆★☆本日の営業は終了しました☆★☆』
そんな無慈悲な文字列が「天啓の石碑」中央の右から左へ流れ始める。
いきなり俗物的になりやがったぞ。
てかこれ、どっかで見たことあるな……。
……思い出した。
前の世界で終電逃した時、ホームの電光掲示板に書かれる奴だ!
「ふざけんな!」
思わず「天啓の石碑」を蹴飛ばすも、あまりの硬さに足を痛めた。蹴った方のつま先を押さえながら転げ回っていると、「天啓の石碑」の端っこに
『がんばれ』
と一文、すごい適当な感じで応援の言葉が書かれていた。
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