さざなみ
執行 太樹
私は、電車に揺られていた。冬空の下を走る車両には、私しか居なかった。私の座席の隣には、茶色いアタッシュケースが一つ置かれている。私は、少し疲れていた。電車は、ガタンゴトンという音を立て、ただ目的地に向かって走っている。私は車窓を流れる景色をぼぅっと眺めていた。
電車が、小さな海岸沿いに出た。朝日にきらめく水平線が遠くに見える。浜辺に目をやると、一組の家族の姿があった。
小学生くらいであろうか、兄弟が浜辺を走っていた。二人とも、裸足で砂浜を駆け回っていた。父親らしき人は、その兄弟の近くで何か声をかけている。母親らしき人は、少し離れた岩場に並んで腰を下ろし、そんな家族の姿を眺めていた。
私はその家族に、どこか懐かしさを感じた。その家族が、自身の幼少期と重なって見えた。
電車は、その浜辺を眼前とする小さな駅に停車した。私は、気がつくと電車を降りていた。駅には、誰も居なかった。電車は、私一人を置いて、駅を出発した。
無人の改札を抜け、私は浜辺に向かって歩いた。浜辺に着いた頃には、先程の家族は居なくなっていた。私は、誰もいない浜辺を、一人歩いた。
砂浜は陽の光を吸い込み、白く輝いていた。砂の感触を足の裏に味わいながら歩いていると、小さな岩場を見つけた。その中で、腰の高さあたりまである岩に、私はもたれかかるようにして座った。そして、浜辺を眺めた。
さざなみが聞こえる。青空が見える。風が吹いている。ただ、それだけがあった。私はまた、この場所を訪れるだろう。そう思った。
しばらく岩に座っていた。風が強く吹いた後、私は腰を上げ、お尻についた砂利を手で払った。そして、青空に響くさざなみの音を背に受けながら、浜辺を後にした。
さざなみ 執行 太樹 @shigyo-taiki
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