第13話 血
願った。願い続けた。
二人が無事であることを。
やがて、医師がこちらの方に歩いてやってくる。顔は深刻そうだった。
「二人は!二人はどうなったんですか!」
「颯太さんの方は点滴を打つだけで問題有りませんでした。ですが、今、深刻な状況にあるのは唯朱さんの方です。止血には成功したのですが、瀕死でして…今すぐ輸血が必要な状況なのですが、唯朱さんの血液型がこの病院には只今無くてですね…」
「血液型は…なんですか…?」
「AB型のRh nullです…実際、日本に、この血液型は彼女を含めて三人目です。しかも、この血液は同じ血液しか受け付けません…仮に、別の血液を送り込んだとしても、凝結して血管が詰まり、死んでしまうでしょう…」
聞いたことがある…その血液型は…ずっと忘れていたけど…
「俺の…血液型…」
「はい?」
「俺の血液型です!早く、一刻も早く輸血してください!」
「そんな、都合が良いことが、あるのですか…?」
「あるんですよ!そんな…都合が良いことがっ!」
「わ、分かりました。今すぐに確かめましょう。そうすることで貴方の血液型が唯朱さんに適合するかどうかを調べられますから!落ち着いてください!」
捲し立てるように言葉を並べ、血を提供する。
目眩がするほど血が抜かれたが、唯朱のためと思えば、そこまで辛くは感じなかった。
何分経ったのだろうか。天井に付いている黒い線のようなものを368まで数えたところで、医師がこちらにすっ飛んでくる。
「奇跡です!合いました!貴方の血液型と唯朱さんの血液型が!これで…これで、唯朱さんは助かります…」
「本当…ですか…?」
何か、熱いものが頬に滴り落ちていた。その正体が涙だと自覚するのに、少しの時間を要した。
止めどなく溢れてくる涙を手で押さえつけながら、医師に促され、唯朱の病室に行く。
715。一人用の病室だった。
桃髪の少女が、窓の空気を浴び、髪を靡かせている。
こちらに気がついたのか、顔をこちらに向ける。
「理仁…」
一人の、純粋な少女が、目に涙を湛え、俺の名前を呼ぶ。
「唯朱…良かった…」
気づけば、手を取っていた。温かい。先程までの冷たく、絶望すらも感じた手だとは思えなかった。
「ありがとう…本当に…ありがとう…」
か細い声で唯朱が話す。
「こっちも…ありがとう…」
バタンと、医師が戸を閉める音がした。
「ありがとうございます。貴方も血を提供してくださって」
「いや、良いんですよ。僕と、理仁しかいないんでしょ?その、AB型のAH nullってやつは」
「ですが…そんなに都合が良いことがあるものなんですね…」
「ええ…まぁ、半分以上は必然みたいなものですけどね」
「はい?」
「まぁ、そんなに深堀りする必要は無いんじゃないんですか?なにせ、デリケートな話題ですから」
「それは失礼しました。唯朱さんは、3日ほどで退院出来ると思われます。本当に、協力ありがとうございました」
「そんなに頭を下げないでください。協力して当然ですよ。だって、友達以上なんですから」
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