第12話 救急
「ちっ…今日はこれくらいにしておいてやるさ…また、会おうね。唯朱ちゃん♡」
「あっ…待てっ!」
理仁が追いかけようとするが、あの男は用意されていた車に乗り、どこかへと去っていってしまった。
「ごめん…ね…私が…弱いから…」
目から涙をポロポロと流しながら、光が消えかかっている目でこちらを見てくる。
「ゴホッゴホッ…僕は、救急車呼ぶから…」
急に重力が二倍になった気がする。それでも、咳が止まらない体を動かし、救急車に連絡をする。
救急隊員に心配されながらも、連絡を終えた僕は、異常なまでの倦怠感と、眠気に襲われ、あっけなく気を失ってしまった。
★
「ごめん…ね…私が…弱いから…」
生気が無くなりつつある目でこちらを見てくる。いたたまれない目。この世の絶望を知った目。そんな姿を、見ていられなかった。
俺は彼女に駆け寄り、強く抱きしめる。手にドロっとした温かい液体が乗り、それが血であると再認識する。
「ごめん…気づいてあげられなくて…」
自然と涙が溢れていた。自分に対する情けなさ。こうなることもあるだろうと思っても居なかったから。
「なんで、理仁が謝ってるの…全部悪いのは私だよ…道を間違えて…颯太にも…理仁にも…他の人にも…迷惑をかけちゃって…謝るべきなのは…こっちなのに…」
「気づいてあげるべきだった…一緒に登校してあげればよかった…そうすれば…唯朱がこんな思いをしなくて済んだ…本当に悪いのは…俺なんだ…」
今も尚降り続けている大雨の中でも、唯朱の涙がひしひしと肩に伝わってくる。それに伴い、段々と唯朱の体温が下がってきている。
「ごめんね……頼るって……ことを……しなくて……」
「あぁ…頼ってくれ…お願いだ…」
遂に、唯朱の体から力がなくなり、俺に凭れ掛かるようになってしまった。だが、それと同時に、遠くからサイレンの音が聴こえてくる。
「唯朱……?」
「えへへ………もう………無理だ………」
「嫌だ…まだ…死ぬなよ………」
そこからはあまり覚えていない。唯朱を抱えながら、救急車が到着するのをひたすら待った。颯太はなにかがあって動けないのか、車の中から出て来なかった。
救急隊員が唯朱を見て、迅速に対応してくれる。彼女が担架に乗せられている間に、第一発見者は誰かと聞かれる。
「一緒に見つけたんですけど…心配だからって言って、GPSを唯朱に付けたのは颯太で…車から出てきてないんですよ…」
「電話を掛けてくれた人か…分かった。今すぐに向かおう」
少し離れた場所の車に向かうと、颯太のお母さんの声が聞こえる。なにかを叫んでいるようだ。
「颯太!颯太!起きて!」
血の気が引いていくのを感じた。
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