第2話 好きな人

 そよ風が顔を撫でる。

 いつも一緒に昼食を食べてくれる理仁は委員会だとかなんとかで居ないため、一人淋しくご飯を食べている。

 改めて、友の大切さを痛感する。


 大体、一人ではこんな所には来ないのだが、今日ばかりは、こいつとの約束がある。


「ねぇ…笑わないで聞いてくれる…?」


 そう。謎に顔を紅潮させ、視線は泳いている。更には手を前に組み、不規則なリズムで体をゆらゆらと揺らす唯朱こいつとの。


「何だよ。言いたいことがあるならさっさと言ってくれ。生憎、この後はラノベを読むという重大な仕事があるからな」

「あんた、本当にラノベ好きよね」


 軽口の叩き合いで、少しは落ち着いたようで、意を決したように唯朱が口を開く。


「私は、理仁のことが好き。だから、あんたには、私と彼が付き合うまで手伝ってもらうから」


 咽た。思いっきり咽た。お茶を飲んでいる瞬間にそんな事を唐突に言わないでほしい。無論、笑ったわけではない。あまりの衝撃に驚いただけだ。


「……笑わないでって言ったじゃん……」

 再び、顔を紅潮させる。だが、その声は先ほどとは比べ物にならないほど、か細く、哀しそうだった。


「違う。笑ってない。ちょっと驚いただけだ。というか、なんで僕になんか相談したんだ?別に、他の女子たちにもこの話ぐらい出来るじゃないか。そっちのほうが食いつきとかすごそうだし」

「はぁ?」


 呆れた顔をし、馬鹿にしたように見つめてくる。その態度が少しばかり気に食わなかったが、そこまで子供ではない。再び、お茶を飲んで心を落ち着けようとする。


「だって、あんたのことは二番目に好きなんだから」


 一度あることは二度ある。あまりの驚きで咽ることすら出来なかった。恐らく、数ミリリットルは肺の中に入っただろう。気管支が痛い。


「なんて言った…?」

「あ、勿論、家族としてだよ!黒マスクを付けて、更には伊達メガネなんかを付けている陰キャの最終形態みたいな感じのあんたは恋愛対象として見てないから!そこんところ勘違いしないでよね!ほら…私達って小さい頃から一緒に遊んでて実質家族みたいな感じだからね!あと、彼とあんたって同性じゃん。だから、色々分かることとかあるのかなって、あと、あんたラノベ見てるし、そこんところの常識はだいぶ付いているんじゃないかなって思っただけだからね!それと…」


 崩壊しかけている日本語の高速詠唱を右から左に流し、ふと、頭によぎった疑問をそのまま聞く。


「なぁ、なんであいつのことを好きになったんだ?勿論手伝うけどさ。そこが分からなかったら話が進まねぇぞ?」


 ペラペラと回っていた口が止まり、急に昔を懐かしむような表情に変わる。こいつ、表情が本当にコロコロ変わるな!?


「それは、小学五年生の時。その時、私は階段で転びそうになったの。だけど、間一髪で来てくれたのは彼だったの。それで、あの人、なんて言ってくれたと思う?『唯朱に怪我がなくてよかった。大切な友達だからな』って言ってくれたの!本当に嬉しくて嬉しくて」

「でも、あいつは大体の人に言っているような…」

「でね、でね!その時から意識するようになっちゃって、その時同じクラスだったから、彼のことをずっと見られるようになってて、最高だったの!そこから、毎回同じ係になるようにしていたの!いつ何時でも彼が側に居てくれているってことが幸せで、近寄る女子は全て退けてたの。だって、彼の周りに不純物が映るじゃない」


「なぁ、一つ言って良いか?」

「ん?何?」


 話を中断されて少し不機嫌そうだったが、一応耳を傾けてくれて助かった。回想に浸っているこいつを現実に引き戻す一言を放つ。


「もう、授業始まってるぞ?」

「え?」


 グラウンドから、授業の喧騒が聞こえてきた。

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