行かない取材

西嶋修平は、モニターに表示されたコタツ記事を眺めていた。

どこかからコピーした情報をつなぎ合わせ、裏付けもないまま憶測を重ねている。読み進めるほど、胸の奥に苛立ちが溜まっていく。その一方で、今回はどこかほっとしている自分もいた。


記事の中の一文が、引っかかる。

事実なのか、ただの噂なのか。修平は検索をして、確かめようとした。

修平は昔から、ひとつ疑問が浮かぶと、関連資料を探し、過去の記事を読み返し、気づけば海外の情報にまでたどり着いている。そんなことを、これまで何度も繰り返してきた。その性分が、WEBメディアのライターという仕事には向いていた。


やがて企画を任され、書き手を束ねる立場になった。

編集責任者として複数のメディアを管理していた頃、世の中の状況が急変し、在宅ワークが一気に広がり始めたのとほぼ同時に、会社を辞めた。そのとき、寝室の窓際に臨時でデスクを置いた。

家にはほかにリビングと娘の部屋があるが、平日の大半を、修平はこの一角で過ごしている。いつの間にか、このこじんまりとした場所を好きになってきたが、冬になると、窓の隙間から入り込む冷気が、容赦なく足元を冷やす。


修平は、憶測で書かれた記事について、それ以上調べるのをやめた。画面から目を離し、椅子に深く腰を沈める。

廊下を挟んだ向かいの部屋――美樹の部屋から、笑い声が聞こえてきた。

しばらくして、寝室のドアがノックされる。


「お父さん、今日ごはんどうする?」


ドアを開けた美樹が、顔を覗かせる。


「ああ、今日はちょっと忙しくて。あとで何か買ってこようと思ってたんだけど。奈緒ちゃんはどうする?」


奈緒ちゃんは、美樹が保育園の頃からの友人だ。中学三年になった今でも、こうして時折遊びに来る。


「あ、私、そろそろ帰るんで」


美樹の後ろから、少し背伸びするように奈緒ちゃんが顔を出した。「何か食べてく?」という言葉が、喉のあたりで止まる。


結局、奈緒ちゃんを家まで送り、そのままどこかで食事をしてくる案にまとまり、修平は再びモニターへ視線を戻した。


『犯行直前の大林静香容疑者』

そうキャプションのついた写真には、赤いスーツの女性が写っている。後ろ姿だが、整えられた髪と、歩く姿勢から、妙な力強さを感じた。その輪郭に、奈緒ちゃんの姿が重なる。


大林奈緒。

――容疑者の妹だ。

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