父親がヤリチンすぎてラブコメが出来ない~俺が出会うラフゴメヒロイン、どいつもこいつも、姉か妹
マウンテンゴリラのマオ(MTGのマオ)
第1話 隣の席のあの子
「香奈……好きだ。付き合ってくれ」
俺―――鈴木文也は、一世一代の告白をしていた。相手は、隣の席の木村香奈。高校入学直後に出会ってから、すぐに仲良くなった。そしてゴールデンウィークを前にした今、俺は思い切って告白することにしたのだ。
「文也君……はい、喜んで」
そして、香奈は俺の告白を受け入れてくれた。
……もし俺の人生がラブコメだったとしたら、酷くつまらない内容だろう。ヒロインと出会ってひと月で付き合うなんて、ラブコメとしては駄作もいいところだ。でも、別に問題ない。これはラブコメではなく、俺の人生なのだから。順風満帆でいいのだ。
◇
「別れなさい」
翌日。香奈を家に連れて、彼女を母親に紹介した。すると、母の第一声がこれである。
「は……?」
あまりにも意味不明すぎて、思わず間抜けな声が漏れだした。……そもそも何故香奈を家に連れてきたのかといえば、昔から母にしつこく言われていたことがあったからだ。母の言いつけは二つあって、その内の一つは「彼女が出来たら必ずすぐに紹介すること」というもの。正直、彼女が出来たからって一々紹介するのも恥ずかしかったが、隠しておいても後でバレてややこしいことになっても困るし、紹介さえ済ませてしまえばお家デートもしやすいので、思い切って連れてきたのだが……。
「木村香奈ちゃん、よね? あなた、木村紀子の子供でしょ?」
「え……どうしてお母さんの名前を?」
俺と同様に呆然としていた香奈は、母の言葉に驚いている。なんで俺の母親が、香奈の母親の名前を知っているのか。
「紀子とは幼馴染なのよ。まあ、今では完全に疎遠なんだけど……。香奈ちゃんとは顔立ちも似てるし、文也と同い年の子供がいるっていうのは知ってたから」
その疑問に、母はそう答えた。この辺は母の地元でもあるから、そういうことがあってもおかしくはないか。
「でも、どうして突然別れろなんて……」
「それはね、あんたたちの父親が問題なのよ」
それはそれとして、唐突に別れるように言われたことについて問い質すと、母はそんなことを言った。俺たちの、父親……?
「文也の父親、鈴木敏夫は女癖が酷くて、とんでもないヤリチン野郎でね……私と結婚して大人しくなるかと思えばそんなことなくて、私たちをほったらかして色んな女のところを渡り歩いてるのよ。今ではどこにいるのかも分からないわ」
うちは母子家庭で、父親については何も知らないで育った。死別したわけではないこと、今は連絡が取れないこと、どうしようもないロクデナシだったことは何となく知ってたが、俺自身あまり興味がなかったこともあって、詳細な話は今初めて聞いた。……まあ、子供に聞かせるには躊躇う内容だとは思うので、納得もいったが。
「それで、あいつは紀子にも手を出してたのよ。紀子は敏夫との子供を一人で産んで育てることにして、それが原因で疎遠になったってわけ」
「それって……」
聞かされた話を整理するとこうだ。俺の父親はとんでもないヤリチンで、俺の母以外の女性とも関係を持った。そして香奈の母親もその一人だった。それはつまり―――
「香奈ちゃんはね、文也とは腹違いの兄弟なの。文也は四月二日生まれだし、香奈ちゃんは妹ってことになるのかしらね」
「「……」」
俺と香奈が兄妹。そう聞かされて、俺も香奈も言葉が出なかった。衝撃のあまり、思考が纏まらなくなる。
「というか、文也。あんた、ちゃんと言いつけを守らなかったわね? 言ったでしょ? 「AB型の女の子とは付き合うな」って」
「そ、それは……」
母に言われたのは、昔から言いつけられていたことのもう一つ。だけど、それに一体何の関係があるのか。まさか血液型占いなんて非科学的なものを信じてるわけでもないだろうと、俺は半ば無視していた。というか、そもそも香奈の血液型自体知らないし。
「香奈ちゃん、AB型でしょ? そしてお母さんはO型」
「どうしてそれを……?」
「紀子のほうは幼馴染だから知ってるだけだけど、香奈ちゃんのほうは必然的にそうなるのよ。……敏夫はね、特殊な血液型なの。シスAB型って知ってる?」
母が言うには、俺たちの父親はシスAB型という特殊な血液型らしい。
「メンデルの遺伝の法則を習ってれば分かると思うけど、普通のAB型―――トランスAB型っていうんだけど、それは両親からA型とB型の遺伝子をそれぞれ受け継いでなるものなの。だから、O型の子供は相手の血液型に関係なくAB型にはならない。A型とB型、どちらの遺伝子も持ってないのがO型だもの。その親から子供が受け継ぐのはO型の遺伝子だけ。……でも、例外がある。それがシスAB型」
人間には染色体という遺伝子の塊があって、それは二本で一対になっていて、合計で23対46本ある。両親から各対のうち一本ずつ染色体を受け継ぐことで、子供の染色体も決まる。故に、血液型も同じ要領で決まる。中学の理科で習った話だ。
「シスAB型は、それ単体でAB型の性質を示すの。だから、その遺伝子を受け継ぐと、相手の血液型に関係なく子供の血液型もAB型になる。これ自体がかなり珍しい血液型なんだけど、敏夫の場合は更に特殊で、このシスAB型の遺伝子を二つ持ってるのよ」
普通の人間ならA型とB型、A型とO型、みたいな遺伝子の組み合わせなのに対して、シスAB型の子供はAB型とO型、みたいな組み合わせになる。そして俺たちの父親は、AB型とAB型という非常に珍しい組み合わせをしているとのこと。故に、その子供は必ずAB型になるのだとか。
「まあ、AB型ってだけなら普通の、トランスAB型の可能性もあるけど、一々細かく調べるのも大変だし。この辺で文也の同年代でAB型ならあいつの子供の可能性が高いから、安全策としてAB型の子とは付き合うなって言ってたんだけど……とりあえず、これで納得してくれたかしら?」
「「……」」
母にそう言われて、俺も香奈も、頷かざるを得なかった。
「えっと……なんか、ごめん」
母との話が終わって。俺は香奈を駅まで送っていた。……正直、俺たちが兄妹だなんて話は未だに飲み込み切れてない。でも、それは香奈も同じのはずだ。そう思うと、俺が告白したせいでこんなことになったのではないかと、申し訳なくなってしまったのだ。
「う、ううん、文也君は悪くないよ……私たちには、どうしようもないことだったし」
「でも、俺の父親のせいだし……」
「でも、私の父親のせいでもあるから……もっと言えば、私の母親のせいでもあるよ。既婚者と関係を持って子供まで作っちゃうんだもん」
俺の家庭の事情に巻き込んだという負い目を感じていたのだが、確かに香奈の家庭の事情でもあるんだな……。
「私たち、恋人にはなれないけど……でも、これからは兄妹として、仲良くしようよ」
「香奈……ああ、そうだな」
正直、今すぐ香奈と一切の蟠りなく兄妹として過ごすのは難しいと思う。絶対に気まずいし、ぎこちなくなるのは避けられない。でも、せっかく出来た兄妹なのだ。母親たちは俺たちの父親のせいで疎遠になったらしいけど、せめて俺たちだけでも仲良くしないとだな。
「じゃあ、これからは兄妹として、よろしくな、香奈」
「うん。文也君」
話しているうちに駅に到着して、俺は香奈と別れた。……物理的な意味でも、恋愛的な意味でも。
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